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のこりのなつやすみ(6)
僕は、部屋を見回して言った。
「あーでも、ここじゃ嫌だよね。久しぶりに、律也の部屋に行こうか」
「はあ…」
律也は大きな溜息をついて…僕を抱きしめた。
「どうしちゃったんだよ、お前…」
「…別に」
そう言うと僕は、彼の腕をすり抜け…
ベッドから下り、身支度を整えた。
「じゃ、行こ?」
何事もなく冷静な僕の様子に、
律也は、やや圧倒されていた。
とりあえず僕らは、一緒に部屋を出て、
律也の部屋に向かって歩いた。
「郁…痩せたなあ…」
僕の肩を片手でさすりながら、彼は呟く様に言った。
「そう…かも」
「ちゃんと食事してる?」
「うーん…あんまり…」
「大丈夫なのか?」
「うん…別に、全然…」
そして僕らが律也の部屋の前まで来たとき…
その足音を聞きつけて、
隣の部屋から正田が出てきた。
「よう!」
正田は親しげに、僕を呼び止めた。
「ああ…なに?」
僕は振り向き、正田に向かって笑いかけた。
正田は相変わらず、せせら笑うような口調で言った。
「今夜は律也なの?」
「うん…久しぶりだしね」
「じゃ、明日は俺予約してー」
「わかった…」
「お、おい…郁!」
律也が慌てて口を挟んだ。
「何言ってんだ…ダメに決まってるだろ?」
「なんで?」
僕は、キョトンとした表情で訊き返した。
「ん…なんで…って、当たり前だろ?」
それを見て正田が、また笑いながら言った。
「わーかったよ。律也」
そして僕の方を見て、続けた。
「当分は律也さま貸切だなー」
「うん…」
「その代わり、ちょっとだけ…」
正田は僕を手招いた。
僕は彼に近寄っていった。
「おい、郁っ」
止めようとする律也を横目に、
正田は僕の腕を掴んで引き寄せ…
俄に僕の顔に自分の顔を近づけ、口付けた。
僕は冷静にそれに応えて、
正田の首に自分の両腕を巻き付けた。
「…おい郁っ!止めろ!」
凄い勢いで、律也が僕らの間に割って入った。
そして正田を激しく睨み付けた。
「調子乗るな」
「ふふん、調子に乗ってんのはどっちかなー」
余裕の笑みで、正田はそう言い捨てると
おとなしく自分の部屋に入っていった。
律也は、僕の肩を抱き抱えるようにして、
自分の部屋に押し込んだ。
彼の部屋に入ってからも、僕は冷静だった。
「煙草…もらうね」
僕はソファーに座り…
テーブルの上の煙草を取り出して、火をつけた。
「楽しかった?なんだっけ…オーストリアだっけ?」
僕の話に、律也は全く乗ってこなかった。
ただ黙って…
怒った様な顔でじっと下を向いていた。
「…どうしたの?しないの?」
何も言わずに立ち尽くす彼に痺れを切らして、
僕はソファーから立ち上がった。
「…郁っ」
律也は僕に駆け寄って、思い切り僕を抱きしめた。
「なんで…どうしちゃったの、お前?」
そしてそのままベッドになだれ込み、
僕を押し倒した。
僕の身体の上に顔を埋めて…彼は言った。
「郁…お願いだよ…頼むから他のやつとしないで…」
僕は答えた。
「なんで?律也には関係ない…」
「関係あるよ!」
顔を上げ…律也は僕を見下ろして、言った。
「お前が…好きだ」
そしてまた、強く僕を抱きしめた。
「俺は…お前を…愛してるんだ…」
好きだ?
愛してる…?
僕は、心の中でその言葉を繰り返した。
僕が好きなのは…
僕が、愛してるのは…
それは…
冬樹…
冬樹…なのか、この人は…
この人は僕が好きな冬樹なのか…?
目を閉じて僕は…身体の五感を全て働かせた。
この声も、この頬も、この腕も、この髪も…
この人のもの…それは全て、
僕の知ってる冬樹のものでは、無かった。
「好きなんだよ…」
「…やめろ!!!」
次の瞬間、僕はそう叫ぶと、
思い切り律也を、突き飛ばした!
「うわっ…」
気がつくと…
僕の目からは、涙が溢れていた。
「好きだ…なんて言うな…愛してるなんて言うな…」
ベッドの端に飛ばされた律也は、
驚いて僕を見つめた。
「…かお…る?」
「…違う。あんたは冬樹じゃない…」
「…?」
「好きだ…なんて言わないで…あんたは、ただ…」
そう言いながら僕は起き上がり…
律也の方へ這っていき…
彼の両足を割って入り、股間に顔を埋めた。
「あんたはただ…僕を抱いてくれたらいいんだ…」
そして、彼のモノを引っ張り出した。
「…僕を眠らせて…くれればいいんだ…」
それだけ言って僕は、
彼のモノを口いっぱいに含んだ。
「…郁…」
冬樹?
冬樹って誰だ?
律也は心の中で呟きながら…
僕の髪を両手で撫でた。
そして、とりあえずその名前は
自分の胸の内に仕舞った。
それから律也は僕の頭をそっと離し…
逆にまた僕を押し倒した。
僕の顔を両手で押さえ…
涙を指で拭った。
そしてたまらない表情で、力強く口付けた。
「…んっ」
そして僕のシャツのボタンを外しながら…
乳首に手を這わせた。
僕は彼の背中に手を回して、言った。
「お願い…もっといっぱいして」
「…」
そんな僕の様子を気にしながら…
律也は言われるがままに愛撫を続けた。
「脱がせて…触って…挿れて…」
僕は彼に求め続けた。
疲れて落ちて…眠ってしまうまで…
眠りについた僕の身体を…
律也は再び、しっかりと抱きしめた。
俺はどうしたらいい…
どうしたらお前を止められる?
でも、律也には僕を止めることはできなかった。
その後も僕は相変わらず…
毎晩のように、誰かの身体を渡り歩いた。
そんな状態のまま…僕らは新学期を迎えた。
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