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動乱の2学期(2)

その晩、僕は相当飲んだ。 もう頭はクラクラしていたし… 正田としても、なんだか気持ちいいのかどうなのか… よく分からなくなっていた。 次の日彼が、朝早くに出かけると言うので、 僕は必死で自分の部屋に戻った。 フラフラしていて、どこをどう通って帰ったのか… よく覚えていなかった。 バタン。 僕は自分の部屋のドアを閉めた。 気持ち悪い… 水が飲みたい… 僕は洗面所のドアを開けた。 ザーザーザー 浴室の中から水の音がする。 どうやら雅己がシャワーを浴びているようだった。 僕は構わず、洗面所の水道の蛇口を捻って 手に水を汲んで口に運んだ。 そのときだった… ザーザーという水の音に紛れて、 何だか、人の声が聞こえてくるのに僕は気付いた。 「…?」 僕は耳をそば立てて、シャワー室の扉に耳をあてた。 「はぁ…あ…」 それは、雅己の声だった。 何だか、息を荒くしているようだった。 僕は、一体何が起きているのかと思い… 酔った勢いも手伝って、その扉をバッと開けた。 「…!!」 もの凄く驚いて… 気まずそうな表情の雅己が、そこに立っていた。 「!!」 シャワーを浴びながら、彼のその手は… 自分のモノを握りしめていたのだった。 雅巳だって男だ。 1人のときに、自分でしてたって何の不思議もない。 「…雅巳…」 「かっ…郁…」 突然のことに狼狽え、顔を赤らめる雅己に向かって 僕は笑いかけて言った。 「なんだよ雅己…水くさいな、僕がこんなにすぐ側にいるのに…」 僕は、そのまま立ちすくむ雅己に近寄った。 「いつでも言ってくれたらいいのに…」 そう言いながら…僕は雅己の足元に跪いた。 「お…おいっ…郁!?」 雅己の腰を両手でしっかり押さえ付け… 僕は雅己のモノを口に含んだ。 「う…あ…やめろっ…郁っ…」 僕の手から逃れようと、もがく雅巳の身体を… 僕は壁に押し付けながら、口で愛撫を続けた。 「…や…やめろって…」 それでも僕は止めなかった。 目を閉じ…夢中で、雅己のモノを舐めまくっていた。 「やめろーー!」 「うあっ…」 雅己が、渾身の力で、僕を思い切り突き飛ばした! ガシャーン! 僕は、思い切り吹き飛んで、 ドアの角に頭をぶつけて、洗面台の下に倒れた。 「…」 ゆっくり上体を起こすと… 額から血が流れて…シャツにポタっと滴れた。 「…郁!」 それを見て、 立ちすくんでいた雅己が僕に駆け寄った。 「ごめんっ…郁、大丈夫?」 僕はハッと我に帰った。 自分のしたこと、そして雅巳にしたことに気付いた。 そして、それに対する自己嫌悪の念が… 一気に僕に襲いかかった。 「…ごめん…雅巳…ぼく…」 そして僕は、どっと泣き崩れた。 「うう…ホントに…ごめんなさ…い…」 「ううん。僕の方こそ、ごめん」 「ううっ…うっ…」 突然、猛烈な吐き気に襲われた。 僕は泣きながら… その場に嘔吐した。 「かっ…郁!大丈夫?…」 「うっ…う…」 泣きながら…吐きながら… 僕はまた、その場に倒れ込んだ。 「郁!…郁!」 雅巳は僕を必死で揺さぶった。 コンコン。 そのとき、誰かが部屋をノックした。 雅巳は、急いでタオルを腰に巻き付け ドアへ向かった。 「はいっ…どうぞ…」 カチャ…っとドアが開き、 そこに立っていたのは…律也だった。 「あ…あなた、郁の?」 「うん…。郁…いる?」 と、律也は、 洗面所に倒れている僕の姿に気付いた。 「…!!」 「ちょうど良かった!手を貸してください」 律也は僕に駆け寄り、 僕の身体を抱きかかえようとした。 「…やっ…触るなっ…」 僕は気が動転していた。 涙が止まらず…身体もガタガタ震えていた。 「どうしたの?」 律也が雅巳に訊いた。 「ドアに頭をぶつけて…それで…」 「とにかくベッドに寝かせよう」 律也と雅巳は2人がかりで、僕を何とか抱きかかえ、 ベッドに連れて行った。 「いやだ…離せっ…触るなー」 律也は、嫌がり抵抗する僕に馬乗りになって 額の傷の血を拭った。 「たいした怪我じゃないな…大丈夫だ」 そして僕が泣き寝入ってしまうまで… 律也は、僕の身体をずっと押さえ続けていた。 その様子を…雅己は呆然と見つめていた。 「ふうー…やっと寝たわ」 「…」 「一体、何が起こったんだ?」 「…その前に…ちょっと聞いてもいいですか?」 「なに?」 「あなた…郁と…その…したことがあるんですか?」 「うん…あるよ」 「…そうですか…」 それを確認してから、 雅己は今さっきの出来事を、律也に話した。 「僕、そんな免疫ないからビックリしちゃって、つい力が入り過ぎちゃって…」 「そうだったのかー…君も大変だったね」 「…でも…おかしいですよね…夏休み終わってから、ずっとこんな感じなんですもん」 「ホントに毎晩なの?」 「…僕が察するところでは毎晩です。泊まってこない日も帰ってくるの遅いし」 「…」 「授業もあんまり出なくなっちゃったし…食事もちゃんとしてるのか分かんないし…」 「…」 「でも僕が何回言っても…全然、聞く耳持たない感じだし…もう、どうしたらいいのか」 「…そうか…」 律也はゆっくり立ち上がった。 「郁の家の連絡先…事務局で聞いて、電話してみるか…もしかしたら何か分かるかもしれないし、郁の様子も知らせておいた方がいいだろうから…」 「そうですね…そうしてください」 そして律也は部屋を出ていった。 雅巳は僕の様子を見ながら… なかなか眠れない夜を過ごした。

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