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動乱の2学期(3)
律也は、事務局で僕の連絡先を調べた。
普通の生徒はなかなかそんな事はできないが、
彼はどうやら、顔が利くらしかった。
「…これが?」
「そうですね。こちらが滝崎郁の保護者代理の連絡先になりますね」
「…結城…貴彦…」
僕の保護者が、両親ではないことを知って
律也は正直なところ、戸惑いを隠せなかった。
「どうもありがとう。助かりました」
事務局の職員にお礼を言って、
律也はその電話番号を、自分の部屋へ持ち帰った。
この、結城って人は…
郁の…一体何なんだろう…?
律也は少し考え…
思い切って受話器を取って、ダイヤルを回した。
プルルル…プルルル…
こんな時間じゃあ誰も出ないよな…
プルルル…
「はい。結城エンジニアリングでございます」
何回かのコールの後…
冷静な男性の声が、電話の向こうに出た。
「あ、あの…わ、私は、日野と申しますっ…」
律也はちょっと慌てた。
まさか出るとは…
「…どちらの日野様ですか?」
律也は一呼吸おいて、続けた。
「…聖◯◯学院の日野と申します。結城さん…いらっしゃいますか?」
「…どういったご用件でしょうか」
「…滝崎くんの件で、ちょっとお話しが…」
「…かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
電話の向こうに、保留の音楽が流れた。
…まさか繋がると思ってなかった。
こんな夜中まで、この会社には人が残っているのか…
と、律也が思いを巡らせていると…
「お待たせしました。結城ですが…」
電話の向こうの、
落ち着いた、でもまだ若そうな男性の声に…
律也は動揺した。
「あ、あの…私…日野律也と申します。あの…郁…いや、滝崎くんの友人で…」
「そうですか。お世話になってます。それで?」
「実は…その、滝崎くんのことなんですけど…」
「郁が、どうかしましたか?」
律也は、夏休みあとの僕の様子を、結城に説明した。
「…わかった。明日の夜にでも時間を作って面会に行こう。私が直接話をしてみることにする」
「よろしくお願いします。もう…俺たちにはどうする事もできないんです」
「わざわざありがとう。知らせてくれて」
「いいえ…」
「では、明日」
「はい、お待ちしてます!」
そして律也は、受話器を置いた。
この…結城って人は…
なんなんだ??
ベッドに入って…
律也もなかなか眠れない夜を過ごした。
次の日は土曜日だった。
授業は午前中だけだったが…
もちろん僕は、それに出席する気にはなれなかった。
二日酔いで頭も痛かったし、気分も悪かったし…
そして何より、雅巳の顔を見るのが怖かった。
僕はずっと…部屋のベッドの中にいた。
授業を終えた雅巳も、何となく部屋に居辛いのか
午後は部活に出かけ…
そのまま直接食堂へ行ったようだった。
ほとんどの生徒が夕食を終えた頃、
まだ食堂で、仲間たちと喋っている雅己のもとへ、
律也がやってきた。
「…ちょっと」
「あ、日野さん」
律也に呼ばれて、雅巳は席を立った。
「どう?あいつの様子…」
「…昼はまだ寝てましたけど、それからは、僕もまだ部屋に帰ってないんで…」
「そっか…」
そして2人は廊下に出た。
「あのさ、郁の保護者の人が面会に来てくれてるんだ。君も一緒に会ってもらえないかな?君からも、あいつの日々の様子を話して欲しい」
「わかりました…いいですよ」
2人は長い廊下を歩いていった。
そして事務局の隣の、応接室のドアの前まできた。
コンコン。
「はい」
律也がドアをノックすると、
中から男の人の声が聞こえた。
「失礼します」
ドアを開け…
2人は、結城の姿を見て…動きが一瞬止まった。
「初めまして。私が結城です」
結城は、戸惑う2人に近付き…
まずは律也に向かって右手を出した。
「…あっ…どうも…俺…あ、いや私が、昨夜電話した日野です。で、こっちが郁のルームメイトの…」
結城は続いて、雅己に向かって右手を出した。
「…あ、畑中雅巳…です」
「いつも郁がお世話になって、ありがとう」
「あ、いえ…こちらこそ」
そして結城は2人をソファーに促し、
自分も向かい側に座った。
「…で、あいつの様子を、教えてもらっていいか?」
律也は雅己の腕を、自分の腕で小突いた。
「君から説明してくれないか」
雅己は、ゆっくり頷き…
最近の僕の状況を、結城に話した。
「…とにかく、夏休み明けてから、急に人が変わったみたいなんです。最初は、本当に…僕に約束してくれたのに…ここでは誰のことも好きにならないって…」
「…」
律也も、黙って俯いて、雅己の話を聞いていた。
雅巳は最後に…
昨夜の出来事も、結城に…話した。
「そうか…そんな事もあったのか…それはすまなかったね、ビックリしただろう?」
「あ…はい…いえ、それはともかくとして…とにかくこのままじゃ、成績も危ういし、身体にも悪いし…」
「わかった。どうもありがとう…そんなにもあいつの事を心配してくれて」
「それじゃ、俺たちこれで失礼します。郁呼んで、ここに来させます」
律也は、そう言いながら立ち上がった。
「うん。そうしてくれ。君も、どうもありがとう」
「いいえ…」
雅己も立ち上がって、律也の後を追った。
2人は礼をして…その部屋から出た。
「僕、ビックリしちゃいましたよー」
廊下を歩きながら雅己が言った。
「あの人って…郁の何なんですかねー」
「…」
律也は、無言のまま…立ち止まった。
「日野さん…?」
「ごめん!悪いけど、郁…呼んできてもらえるか?
俺ちょっと急用を思い出した」
「えっ…いいですよ…」
「悪い。よろしく…じゃあな」
そう言うと律也は、くるっと振り向き、走り出した。
…どうしても
俺はあの人に聞きたいことが…ある。
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