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結城の告白

雅己が遠ざかって、見えなくなるのを確認してから… 律也は再び、応接室のドアをノックした。 コンコン。 「はい」 そして、そっとドアを開け…中を覗いた。 「すいません…少し、お話してもいいですか?」 「構わないよ、どうぞ」 結城は少し驚いた表情だったが、 快く律也を迎え入れた。 律也はバタンとドアを閉め…結城に近寄っていった。 「あの…聞きたいことが、あるんです…」 「…どうぞ」 「郁の好きな人って…あなたのことなんですか?」 律也はじっと、結城の目を見つめた。 結城はしばらく黙っていたが… やがて、口を開いた。 「…いや、違う。私じゃない」 「じゃ…ふゆきって、一体誰なんですか?」 結城は、また少し驚いた顔をしたが… また、しばらくしてから答えた。 「冬樹は、あいつの恋人だった」 「恋人…だった? だった…ってどういう意味なんですか?」 「…」 結城は口籠もった。 そんな結城に、律也は詰め寄った。 「やっぱり、夏休みの間に何かあったんですね!教えてください!」 コンコン。 そのとき、ドアをノックする音が響いた。 「…あっ」 律也は慌てて…部屋中を見回し… そして窓際のカーテンの後ろに、隠れた。 結城はそれを確認してから、返事をした。 「はい、どうぞ…」 カチャ… ゆっくりドアを開いて…僕は部屋へ入った。 結城の顔を見た途端… 涙が溢れ出た。 「結城さん…!」 そして僕は、一目散に結城に駆け寄り… 両手を伸ばして、彼の身体に抱きついた。 「…うっ…ううっ…うう…」 僕は結城に抱きついたまま、泣き出した。 結城は、僕を隣に座らせた。 そして、泣いている僕の顔を両手で押さえた。 痩せて青白い僕の様相に、少し顔を歪めながら… 彼はそっと、僕に口付けた。 「うっ…ううっ…」 それからしばらく… 僕は結城の腕の中で泣き続けた。 「…」 カーテンの後ろで息を潜めていた律也は、 その様子を…何ともたまらない気持ちで見ていた。 どのくらい時間が経ったろうか… ようやく落ち着いてきた僕に、結城が言った。 「お前の友達がね、お前のことを心配して、私に連絡をくれたんだ」 「…」 「お前の気持ちは、痛いほどよく分かる…」 「…」 「1人になるのが怖いんだろう?」 「…うん…」 「だから…押し売りせずにはいられないんだろう?」 「…う…ん」 僕はまた涙を浮かべた。 僕の顔を撫でながら、続けた。 「でもね、だからと言って私は、お前を連れて帰るわけにはいかない」 「…なんで?…もう無理。結城さんと一緒にいたい」 僕は縋り付くように言った。 結城はゆっくり、諭すように言った。 「冬樹は、それを望んでいない」 「…」 (…!) 後ろの律也も、その名前に反応した。 「冬樹が、どうして自ら死を選んだと思う?」 (…死?…冬樹は、死んだのか?) 律也は結城の言葉に、思いを巡らせた。 (郁は冬樹ってやつの死を夏休みの間に知らされたのか…だからあんな風に投げやりな行動に出たんだ…) 『好きだなんて言うな!』 『あんたは、ただ僕を眠らせてくれればいいんだ』 律也の頭に、 以前僕が彼に向かって言った台詞が浮かんだ。 (…そんなに好きなのか…そいつのこと) 結城は続けて、僕に言った。 「お前に、待って欲しくないからだろ?」 「…」 「冬樹に依存しないで、自分の力で生きていって欲しいからじゃないのか?」 「…でも…やっぱり無理…僕には無理…」 僕は必死だった。 結城の言わんとすることは、わかる。 確かに、その通りだと思う… でも今の僕は、 それを理解して受け入れられる状態ではなかった。 とにかく、このまま此処には、いたくなかった。 「お願い…僕を連れて行って…」 そしてまた、彼の首に手を回して縋り付いた。 「結城さんと一緒にいさせて…」 結城は、僕の頭を撫でながら… 小さな声で続けた。 「いいか郁、一度しか言わない…」 そして僕の耳元で、囁くように。言った。 「俺は…お前のことが好きだ」 「…!?」 俺…だった。 「俺は、冬樹じゃない」 「…」 「わかるか?」 「…」 「冬樹の代わりじゃない」 「…」 「冬樹の代わりにお前を慰める係にしか見てもらえない、俺の気持ちが分かるか?」 僕は思わず…顔を上げた。 結城はまた、僕の顔を両手で掴んで…口付けた。 「…んっ…んん…」 いつもの、僕の知ってる結城じゃなかった。 何ていうか… 切なさが、彼のくちびるから伝わってきた。 ゆっくり顔を離すと… 結城はキッパリと言い切った。 「私は、今お前が求める相手には、なれない…」 そして、僕の手を… 優しく振り解きながら続けた。 「見守っている。保護者としてね」 そして、立ち上がった。 「…結城…さんっ」 そしてドアに向かってスタスタ歩いていった。 「待って!…待って、結城さん!!」 僕は慌てて追いかけた。 しかし結城は… 叫ぶ僕を振り向くこともなく バタンとドアを閉めて…出て行ってしまった。 「……」 僕はその場にへたり込んだ。 それを見て… 律也が、カーテンの裏から飛び出してきた。 「…郁っ」 律也は僕を、思い切り抱きしめながら言った。 「…お前を守りたい…」 「…」 「俺じゃ…俺じゃ、ダメなのか?」 「…」 「冬樹の代わりでもいい、寂しい思いはさせない…」 僕は…彼の手を、 ゆっくり自分の身体から離し、押し戻した。 そして律也の目を見つめて、申し訳なさそうに… でもハッキリと、言った。 「…ダメ…なんだよ…」 それを聞いて… 律也はそのまま、床に崩れた。 僕はフラフラと立ち上がって、ドアに向かった。 「ありがとう…律也…」 最後にそう言い残して…僕は部屋を出た。

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