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郁を探せ(1)

「おい、畑中ー」 「あ、どうも…」 それから数日後… たまたま廊下で雅己を見かけた律也は、 声をかけて駆け寄った。 「郁、あれから…どう?」 「どう…って言われても…実はあの日から、部屋に帰ってきてないんですよ」 「えっ、ホント?」 「はい…一体どこに泊まってるんだか…」 「そっか…俺、心当たりをあたってみるわ」 「そうですね…あんまり戻ってこなかったら、事務局にも言わなきゃいけないし…」 「じゃ、またね」 そう言って律也は、雅己と別れた。 律也は自分の部屋に戻ったが… しばらく考え込んでから、再び部屋を出て、 正田の部屋に向かった。 コンコン。 「はーい、誰ー?」 カチャッ。 「俺…だけど、ちょっといい?」 「あれー珍しいね、何か用?」 正田はソファーに座ったまま、律也を手招いた。 律也は彼の向かい側に座った。 「飲むー?」 「いや、今日はいい」 「あ、そう…で、何?」 律也は切り出した。 「あのさ…お前…郁、知らないか?」 「えっ?」 正田は全く、寝耳に水といった表情で聞き返した。 「なんで? いないのか?」 「うん…どうやら、ここ数日部屋に戻っていないらしいんだ。お前なら…何か知ってるかもしれないと思って…」 正田はそれを聞いて、 黙ってしばらく考え込んだ。 「確かに、土曜日の夜は…ここにいた」 土曜っていうと… あの日だ!結城さんが来た日… 「それ、何時頃?」 「えーと…来たのが21時前くらいだったかなぁ…」 正田は記憶を手繰り寄せながら、続けた。 「でも、出てったのは、気付かなかったんだよなー」 「…」 「でもたぶん…あのとき、俺が寝てからすぐに出てったんじゃないかと思うから…12時とか、下手したら1時とか、だったかも…」 「それから誰か、他の所に行ったとか…?」 「いやーあの日は…流石のあいつでも、あのあと次は無かったと思うなー」 「…!?」 「あ、いや…まあねー」 正田は口を濁した。 「とにかく、じゃ…それっきり行方不明ってこと?」 「うん…そうらしい」 「わかった。俺も知ってるヤツあたってみるわ」 「頼む。そうして欲しい」 そう言って律也は立ち上がった。 正田が早速、電話の受話器を取るのを チラッと横目でみてから、彼は部屋を出た。 郁…どうしちゃったんだよ… どこにいるんだよ… 律也はその足で、 雅巳しかいない僕の部屋を訪ねた。 「まだ戻ってない?」 「はい、全然…留守の間に戻った形跡もないです」 「そっか…」 律也は、僕の机の前の椅子に座った… と、ほんの少しだけ隙間の空いた 1番上の引き出しが、目についてしまった。 「…」 悪いなと思いながらも… ついつい、彼はその引き出しを…少しだけ開けた。 「…!!」 律也は目を疑った。 そこには… それまでに僕が稼いだ1万円札が、 無造作に投げ込まれていた。 「なんだよこれ…」 思わず雅己も覗き込んだ。 「えっ…」 「…こんなに…やってたのか…あいつ」 「…」 律也は大きな溜息をつき… もうそんな物見たくない…という感じで その引き出しをバタンっと閉めた。 「…そういえば…」 そのバタンという音で、 雅巳が、ふと思い出したように口を開いた。 「土曜の夜中に…何かの音で目が覚めて…郁かなって思ったんだった…」 「えっ…ホントに?」 「…寝ぼけてたし、あんまり覚えてないけど…」 そして目を閉じ、下を向いて… 一生懸命に、そのときの記憶を手繰り寄せた。 雅己の脳裏に… コートを着て、部屋を後にする僕の映像が… ぼんやり浮かんだ… 雅巳はハッとして立ち上がり… 僕のロッカーを開けて、中を調べた。 「…やっぱり、郁のコートがなくなってる…」 「それ…何時頃だか覚えてる?」 「いや…またすぐ寝ちゃったし…」 「…そうか」 律也は何だか、 居ても立ってもいられない気持ちになっていた。 そして椅子から立ち上がった。 「俺…とりあえず探してみるよ。もしかしたらどこかに隠れてるのかもしれないし…」 「そうですね…僕も、一緒に行きます」 そして2人は連れ立って部屋を出た。

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