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郁を探せ(2)

そうして2人は、 学院内を探して回った。 特に普段あまり使われない、倉庫や準備室など… そして、外も見て回った。 中庭を抜け… 学院を囲む高い壁が目に入ったとき… 律也は、ハッと何か思い付いた形相で、駆け出した。 「日野さん?」 律也が走ってたどり着いたのは… 以前、自分が僕と一緒に抜け出すときに、 いつも越えていた…辺りの壁の下だった。 彼は壁をゆっくり見上げた。 少し遅れて、 後を追ってきた雅己も、その場所に着いた。 「…外に…出て行っちゃったのかな…」 「…そうかも…しれないな…」 そう呟きながら、律也は…辺りを見回した。 と、あるものが律也の目に入った。 彼は駆け寄った。 「…?」 律也はしゃがんで…それを拾い上げて見た。 白いその物体は… 半分に折れた、煙草のようなもの…だった。 再び彼は、そのすぐ上の壁を見上げた。 「ここを…乗り越えて行ったのかもしれないな…」 「それじゃ、やっぱり事務局に知らせないと」 「うん…でも、その前に…」 律也はゆっくり立ち上がった。 「あの人に…結城さんに知らせた方がいいな…」 「…ああ、そうですね」 律也はその折れた煙草を、 自分のシャツのポケットに入れ… 雅己を連れて、自分の部屋に戻った。 雅己は、初めて入る個室に、目を丸くしていた。 「凄いんですねー、僕らの部屋とは大違いだ…」 「ははっ…郁もそんなこと、言ってたな」 コンコン。 律也たちが部屋に入って、数分もしないうちに、 正田がやってきた。 「あ、律也…いい?」 「どうぞ」 正田の後ろに、もう1人立っていた。 「こちら、会長の藤森さん」 「…知ってます」 そりゃもう、生徒会長ですから。 「郁がいなくなったんだって?」 藤森が訊いた。 そして、正田が続けた。 「俺の仲間は、誰も知らないって。心当たりもないってさ。土曜の夜、あいつが出てったのも、誰も気付かなかったって…」 藤森も言った。 「私もその話を聞いて、会員とか先生とか、心当たりを聞いてみたんだけど…やっぱり知らないそうだ」 「…そうですか…」 「じゃあ、やっぱり、外へ出てっちゃったのかなー」 「…うん」 律也と雅巳も呟いた。 律也は、さっき拾った煙草を、ポケットから出して、 正田と藤森に見せた。 「これがね…あの、壁の下に落ちてたんだ」 「!!」 それを見て、正田の顔色が変わった。 律也の手からそれを奪い取り… 彼は言った。 「これ…吸って遊んでたんだ…土曜の夜…」 「じゃあ、やっぱり…」 4人は顔を見合わせた。 不思議なメンバーだ… 「…とにかく、俺、結城さんに電話してみるわ」 「結城さんって?」 藤森が聞き返した。 「あ、あの…郁の保護者の人です」 電話に向かった律也に代わって、雅己が答えた。 「へえー。何だか知らないけど、複雑なんだな…」 正田は、そう呟きながら… ソファーに腰を下ろし、煙草に火をつけた。 「もしもし…あの、私、日野と申します。結城さん、お願いできますでしょうか…」 「その結城って人は、郁のパトロンみたいなもんなのか?」 律也が電話口に向かって話している側から 正田が雅巳に訊いた。 「さあ…そこまでは僕には分かりませんけど…でも、結構若くてカッコいい人でしたよ。ね、日野さん」 「うん…あ、もしもし?」 電話の向こうに、結城が出た。 「今度はどうしたんだ?」 「あ、あの…いなくなっちゃったんです。あの日の夜から…部屋にも、どこにもいなくて…」 「うん…それで?」 「それが…外へ抜け出した形跡があるんです」 「学院の外へ…出て行ったのか?」 「確実ではないんですけど…おそらく…」 「…そうか…」 結城は、電話の向こうで大きな溜息をついた。 「わかった。連絡してくれてありがとう。すぐまたそっちに行く」 「そうですか…僕らも、もう少し探してみます」 「うん、ありがとう」 「じゃ、失礼します」 ガチャン。 「何だって?」 律也が電話を置くや否や、正田が訊いた。 「うん、すぐこっちに来るって」 「へえー、ホント…」 「とにかく、俺たちはもう少し探してみよう」 律也は、力無く言った。 「そうだね…私も、もっと範囲を広げてあたってみることにする」 「俺も、近所の連中にも聞いてみるわ」 そして、正田も藤森も、雅己も… 律也の部屋を、出ていった。 1人残された彼は… 珍しく、煙草にもビールにも手をつけず… ただじっと、ソファーに座って考え込んでいた。 郁…お前いったい、どこ行っちゃったんだよ…

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