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開発(1)

店のドアが開いた。 「いらっしゃいませー」 「あら、いらっしゃいー今日は、おひとり?」 少し恥ずかしそうに、 おずおず入ってきたのは…葉多だった。 前回は、常連の金山さんと一緒だったが、 今回は1人で…約束通り、来てくれたのだった! 可淡は、彼を案内することなく、その場で言った。 「郁…がいいですよね?」 「…あ、はい」 彼はやはり、恥ずかしそうに顔を赤くして答えた。 「ごめんなさいね、今あの子ちょっと席を外してるのよ…葉多さん、お時間大丈夫?」 そのときたまたま…僕は奥の部屋に入っていた。 「そうなんですね…またの機会にしようかな」 「予約入れときます?」 「えっ、そんなのも出来るんですか?」 「ええ、是非してやって。あの子、今すごく頑張って、色んなお客さん相手に気を張ってるから…」 そして葉多の耳元で囁くように、続けた。 「初めての葉多さんが来てくれたら、すごく安心すると思うの」 「…」 そんな可淡の、本音半分の営業トークに、 葉多は…まんまと乗せられてしまった。 後日、改めて葉多が来てくれた! 「葉多さんー」 僕は、彼の姿を見るなり、駆け寄った。 可淡の営業トークは、嘘ではなかった。 葉多が再び来てくれたことが… 僕は心の底からうれしかった。 「本当に来てくれて…本当にありがとうございます」 「いや…まあ…」 やっぱり葉多は、少し恥ずかしそうだった。 僕は彼を席に案内した。 「先日は、すいませんでした。可淡さんからききました。」 「ううん。それは全然大丈夫…」 「今日はホントにありがとうございます」 カチャッ 小さく乾杯したあと、葉多が言った。 「頑張ってるんだって? もう慣れた?」 「いやーまだまだですよー」 「俺も…慣れないなー。1人でこの店に入るの」 「あははっ…」 「いつも飲みに行くのは大衆居酒屋だからね」 「でっかい生ビール出てくるとこですね」 「行ったことある?」 「中学生のとき、教育実習終わった先生に連れてってもらったことがあります」 「中学生〜?!」 「あ、これ…言っちゃダメだったか…」 「くっくっくっ…」 葉多の、その笑い方は… 僕に色々な、懐かしい人たちを思い出させた。 「だから、こういう所で飲んでも、実はあんまり味分かんないんだよね」 僕はハッとして…我に帰り… そして、囁くように、彼に言った。 「じゃあ、むしろ早々に向こう行きます?そっちの方が落ち着いて飲めるんじゃないですか?」 「…そう…だね」 葉多がまた恥ずかしそうな顔になったので 僕は笑って言った。 「大丈夫ですよー飲むだけのための個室として使ってもいいんですって」 「あ、そうなの?」 「ちょっとお金かかりますけどね」 「…それは致し方ない…」 そして僕は、マスターに目配せをし… テーブルの上の瓶やらグラスやらをトレーに乗せて、 葉多を奥へ続くドアに案内した。 そしてまた、先日と同じ部屋に入った。 「ふうー」 葉多はまた、ベッドに座って大きく溜息をつき、 煙草を取り出した。 僕は、前回よりは手慣れた手つきで火をつけた。 「あ、ホントに…こないだよりスムーズだね」 葉多が思わず言った。 「こないだ、僕…そんなでした?」 「うん…緊張感めっちゃ伝わった」 「ああ〜すいませんでした」 僕のそんな様子を見て、 葉多は…可淡の言葉を思い出していた。 そして思わず言った。 「あのさ…俺んときは、気遣わなくていいからね」 「…えっ」 「逆に、気遣われると、俺が緊張する」 「あはははっ…葉多さんて、おもしろいな…」 「悪いけど、俺そんなに金持ちじゃないからさ、そうそう来れないと思うけど…しかも入るの緊張するし」 「…」 「でも勇気出して来るからさ…そんときは、気遣わないで過ごしといて欲しい」 きっとこの人は、真面目な普通の人なんだろうな 今まで僕の周りにいた、とりあえず金持ち…みたいな人とは違うんだ。 そんな人に、そこまで言わせるのが… 僕は少し心苦しかった。 だって、お金を頂いているのだ… なのに、この人の前で小芝居を打つことが… 僕は躊躇われた。 「ありがとうございます…」 僕はしばらく考えて…口を開いた。 「でもね、葉多さん…葉多さんに喜んで頂くのも、僕にとっては、すごく貴重な勉強なんです」 「…」 「この先も、葉多さんみたいに、初体験のお客さまが来られるかもしれない」 「…」 「ホントに申し訳ないんですけど…ぶっちゃけ、そんなとき、どうするかってのを、葉多さんの身体をお借りして、やってみたいんです」 僕は本当に、正直な気持ちを口にした。 葉多は、やはりしばらく考えて、言った。 「君は、とても真面目なんだなー」 そして、グラスに残っていた水割りを一気に飲んだ。 「わかった。じゃあ、やってみて」 「…いいんですか?」 「うん、そういうことなら喜んで実験台になるよ」 実験台って… あーなんか、すいません…

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