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律也放浪記(2)
「お兄さん、どう?いい子いるよー」
ネオンがチカチカと渦巻く通りに差し掛かった所で、
律也はある店の呼び込みの男に声をかけられた。
「あの…」
律也は、その呼び込みに尋ねた。
「そちらには、男の子はいますか?」
「ええっ? やだなぁ、ウチは女の子専門。なに、お兄さんゲイなの?それじゃお話になんないわ」
呼び込みは、呆れた顔で、すぐに律也から離れた。
律也は辺りを見回しながら、
その通りを進んで行った。
ほどなく、また違う店の呼び込みに捕まった。
「お兄さん、どうですか、学割もありますよー」
律也は再び尋ねた。
「ここは、男の子はいますか?」
呼び込みの男は、やはり呆れた顔で答えた。
「この辺の店は、みんな女の子ばっかりですよー」
「そうですか…」
「お兄さん、男の子がいいんですか?」
「あ、いや…まあ…」
「そしたら、新宿公園でも行ってみたらどうですか」
「新宿公園?」
「そこなら、お仲間がいっぱいいる筈ですよー」
呼び込みは、そう言ってスッと律也から離れた。
「…」
律也は走って、その通りを抜けた。
そして大通りまで出て…
歩道に備えてある近辺の地図の前に立った。
「新宿公園…新宿公園…あ、あった…ここか」
彼は辺りを見回し…自分の進むべき道を確認した。
そして、その公園に向かってあるきだした。
新宿公園は、賑やかな繁華街からかなり離れた場所にあった。
周りに開いている店もほとんど無く…
どちらかと言うと住宅街に近い雰囲気の場所だった。
随分と小さい公園だけど…
ホントにここでいいのかな…?
律也はおそるおそる…公園の入り口に近付いた。
そして、そーっと中を覗いた。
すぐには人影は確認できなかった。
でも、入り口を抜け…ふと、横のベンチを見ると…
そこに座っている2人組が目に入った。
「…!」
2人とも、男だった。
ベンチに寄り添って座っていたのは、男同士だった。
そのとき…
「ひとり?」
ポン…と、律也の肩を、誰かが後ろから叩いた。
「!?…」
律也は驚いて、くるっと振り返った。
そこには…30代くらいの男の人が立っていたのだ。
「どう?」
「…えっ…えええっ…どう…って?」
律也は動揺して、答えに詰まった。
その男は続けて言った。
「だって…そのつもりでここに来たんじゃないの?」
「…!」
そう言われて、律也は黙って下を向いた。
ゴクン…と唾を飲み込み、
意を決して、ゆっくり顔を上げて、言った。
「…はい。よろしくお願いします…」
「そう来なくっちゃ」
その男は、律也の肩を抱いて歩き出した。
「…ど、どこに行くんですか?」
「…?決まってるだろ」
律也が連れて行かれた先は、
何の看板も出ていない、灰色の小さいビルだった。
狭い入り口を入っていくと、
パチンコ屋の両替所のような受付があった。
「どうする?泊まる?」
その男が振り向いて、律也に尋ねた。
「あ、は…はい」
思わず律也は、そう返事してしまった。
「宿泊でお願いします」
男は受付に、1万円札を差し出した。
奥から手が出てきてそれを受け取り…
しばらくしてから、お釣りと部屋のキーがこちらに差し出された。
男はそれを受け取り…
すぐ先にあるエレベーターのボタンを押した。
「…ちょっと待ってください」
律也は、その男にそう言うと…受付の小窓に、
ポケットから出した写真を差し出して言った。
「この少年を見かけませんでしたか?」
「…」
受付の向こうの店員は、
しばらくしてから小さな声で言った。
「うちはご覧の通り、お客様の顔が見えないようになってますから…」
「…そうですか」
律也は、写真を自分の方に引き戻してから、
少し項垂れて、男の待つエレベーターに乗り込んだ。
「何の用だったの?」
その男が律也に訊いた。
「あの…この写真の子…見かけたことないですか?」
「…どれ…?」
男はじっと写真を見て…しばらくしてから答えた。
「残念ながら、見覚えないな…」
チーン。
エレベーターが止まり、彼らは廊下に出た。
キーと同じナンバーの部屋を探し、
彼はドアを開け、律也を中へ促した。
「その写真の子を探してるの?」
「…あ、はい」
カチっと、ドアに鍵がかけられた。
薄暗い照明と、目の前の大きなダブルベッドが…
これから起こることを、律也に暗示させた。
彼はその時になって初めて…その状況に不安を抱いたが、もう後には引けなかった。
気がつくと律也は、
その男にベッドに押し倒され、組み敷かれていた。
もちろん、
抵抗しようと思えばいくらでもできた筈だったが、
律也は、なすがまま…その男に身体を任せた。
「あっつ…痛っ…」
そして律也は…
生まれて初めて、男に挿入される痛みを知った。
「初めて…なの?」
「…うっ…はい…下になるのは…ううっ…」
「バック初体験か…」
それを聞いた男は、少し動きを緩めてくれはしたが、
その、張り裂けるような痛みは、
容易に楽にはならなかった。
やがて、その男が満足し、2人とも落ち着いた頃…
男は律也を浴室に誘った。
シャワーを浴びながら…
律也はその男に、呟くように言った。
「あいつ…いつもこんな痛い思いしてたのか…」
それを聞いて、男が言った。
「痛いのは初めのうちだけらしいよ。女の子と一緒で、そのうち身体が慣れると、たまらなく気持ちいいらしいよ」
そう言いながら男は、律也の身体を抱き寄せた。
そしてゆっくり、彼の股間を弄った。
「…んっ…」
律也のモノは…
その手によって、絶頂に向かって上り詰めた。
身を任せながら、彼は心の中で叫んだ。
…郁…待ってろよ…必ず…必ず、お前を…
新宿公園を根城に、
そこに集う男たちと夜を過ごす
律也は、そういう手段を選んだ。
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