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もうひとつのはじまり(2)
葉多に見送られ…
僕はその道を歩いていった。
しばらく進むと、開いている店の数も減り、
辺りは、新宿とは思えない、静かな住宅街のような雰囲気になってきた。
その薄暗い通りに沿って…
やがて、小さな公園が…確かにあった。
「…ここ…かな?」
僕はその公園の周りをぐるっとまわって、
入口のある所まできた。
そこには確かに『新宿公園』と書いてあった。
その入口からは、中に人がいるのか分からなかった。
僕はもう2〜3歩…中に進んで、
再び公園内を見渡した。
すると…奥の方のベンチに…
1人…誰かが座っているのが、見えた。
その横顔には…
僕は見覚えが…確かにあった。
「…!!!」
僕は驚いた…
そして、彼には気付かれないように…
そっと後退った。
ドン。
と、僕は何かにぶつかった。
僕はビックリして、振り返った。
「おやー?金髪のボク…俺のこと待ってた?」
ちょっとヤクザ風の中年の男が立っていた。
「あ、いえ、違いますー」
僕はヤバい、と思い…横をすり抜けようとしたが、
ガシッと力強く、腕を掴まれてしまった。
「そんなツレないこと言わないでさぁ…君だって、そのつもりでここに来てんでしょ?」
「あーすいません、違うんです〜」
その男は、相当酔っている感じだった。
僕は、その手から何とか逃れようと抵抗してみた。
「すいません、離してください」
「何だよ、逃げるなよー」
力で全然勝てる気がしなかった。
僕は抵抗虚しく…その男に抱きつかれた。
「やめて、離してください…」
その男はそのまま、僕を公園の中に連れ込み…
すぐそこのベンチに押し倒そうとした。
そのとき…
バシッ。
誰かが、横からその男を殴り飛ばした。
「うわぁっ」
その男は、ドサッとその場に倒れ込んだ。
「何だ…お前っ…」
「嫌がってんじゃん、やめろよ」
その声は…その横顔は…
「大丈夫か?」
彼はこちらを振り向き…僕に向かって手を伸ばした。
「…!…」
そのとき、
起き上がった男が、背後から彼に襲いかかった。
「…のヤロー」
バシッ…ドサッ。
今度は彼の方が、その場に倒れた。
「このガキがっ…」
男は彼に殴りかかった。彼も負けてはいなかった。
そしてしばらく、2人の乱闘が続いた。
人通りの少ない公園だったが、
騒ぎを聞きつけて、次第に人が集まってきた。
バシッ…ドサッ…
「ううっ…」
ヤクザ風の男が、地面に倒された。
「はぁ…はぁ…」
カチッ。
そのとき、その男が…
ポケットから何か光る物を取り出したのが、
僕の目に入った。
「…ぅおおおっ」
起き上がった男の手には、
銀色のナイフが握られていた。
「律也! 危ない!」
「…!!」
思わず叫んだ僕の声に、彼は驚いて振り返った。
「……」
次の瞬間…
光るナイフが、彼のちょうど横腹の辺りに…
深く吸い込まれていった…
「キャー」
「警察呼べー」
「救急車呼んで」
周りで見ていた人たちが騒ぎ立てた。
そして何人かの男たちが駆け寄ってきて、
ヤクザ風の男を取り押さえた。
そんな騒ぎの中…
「…」
「…」
僕と律也だけは、一時静止画像のように、
立ちすくんだままだった。
しばらくして…
「…か…おる…?」
それだけ言って律也は…
その場に崩れるように倒れた。
「律也っ…」
僕は急いで彼に駆け寄った。
「律也っ…律也しっかりして…死なないで…」
律也は顔を上げた。
僕は彼の手を握りしめた。
「…かお…る…郁…なんだね…?」
律也は少し笑って…
急に、カクンと目を閉じた。
「律也ーー!」
僕は彼の身体に縋りついた。
ピーポーピーポー…
大騒ぎの中、救急車とパトカーがやってきて、辺りは更に騒然となった。
そんな中、僕はまた…
目の前で起こった出来事へのショックで、
律也の上に倒れ込んだまま、
意識を失ってしまった…
死なないで…
お願いだから、あの人のように
僕をおいて逝ってしまわないで…
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