98 / 149

穏やかなふゆやすみ(1)

楽しく盛り上がったパーティーの翌日の夕方… 僕は、それまで自分が寝泊まりしていた部屋を綺麗に片付けた。 泊まった律也は、ひと足先に出掛けていた。 父親に会いに行ったらしい。 僕も結城さんに直接会って謝りたかったが… 電話の向こうの結城に拒まれた。 「わざわざ来なくていい」 「…でも…」 「いいから、さっさと寮に帰れ」 「…ホントに…ごめんなさい…」 電話の向こうの結城は、それでも優しかった。 「お前の反省の気持ちはよく分かった」 「…」 「たまたま拾ったのが可淡でよかった。むしろ良い勉強になったろう?」 「……はい…」 ぬかりないなー 「あとは、例の彼にもよろしく伝えておいて」 「わかった…ホントに、ありがとうございます」 元々、身ひとつで来たので、特に荷物もなかった。 僕は部屋のドアを閉め、店に入った。 マスターと可淡が、 いつものように開店の準備をしていた。 僕は改めて、彼らに言った。 「本当にお世話になりました…」 「郁〜」 可淡が、僕に駆け寄り…抱きついてきたっ 「あんたがいなくなったら寂しくなっちゃうわー」 「…か、可淡…さん」 しばらく僕をギューっと抱きしめていた彼は… ようやく手を緩め…今度は僕の顔を両手で押さえた。 「また何か嫌な事があったら、いつでも戻って来ていいのよ」 「…はい」 「おいおい、物騒な事言うなよー」 カウンター越しにマスターが言った。 「とりあえず卒業してからにしとけ」 「あはは…そうですねー」 と、そこへ…店のドアが開いて、律也が戻ってきた。 「あっ…おかえり、律也くん」 「…どうだった?お父さん…」 「あ、うん、特に大丈夫だったよ。まあもちろん、呆れられたけどね」 そして律也も、改めて2人に頭を下げた。 「本当に、色々ありがとうございました」 「そんな、全然気にしないでいいのよー」 「また、2人で顔出してくれよな」 「はい…じゃ、行こうか」 「…うん」 「親父が、車…出してくれた」 「え?ホントに?」 「うん」 やっぱその金持ちさ加減は相変わらずなんだな… でも、そんな何不自由ない境遇の彼が、 あんな思いをしてまで、 自分を探してくれていたって事が…嬉しかった。 僕は改めて…律也を、想った。 そして僕らは、 可淡とマスターに見送られて店を出た。 そして、律也のうちの車で… ほぼ2ヶ月を過ごした歌舞伎町を後にした。 あの鬱蒼とした繁華街からは想像もつかない、 木々の緑鮮やかな山道を抜けて… 僕らは、とても久しぶりに、学院に戻った。 車は学院の敷地内に入り… やがて正面玄関が見えてきた。 玄関の前には、庄田と藤森と、雅巳が立っていた。 車を見つけた途端に…彼らは駆け寄ってきた。 車が停まり… 律也は…ゆっくりドアを開けた。 「…律也…」 正田が…胸を詰まらせた感じで、その名を呼んだ。 そして、彼の肩を抱いた。 「よかった…元気そうで…」 「心配かけて、悪かったな…」 「郁〜!」 後から降りた僕に、雅巳が抱きついてきた。 「よかったよ〜」 「…雅巳…ごめんね」 「無事でよかったよ〜」 「…ありがとう…ホントに、色々ごめんなさい…」 僕も雅己の背中に手を回した。 僕らのその様子を、藤森が微笑みながら見ていた。 僕は、彼に言った。 「…藤森さんまで…すいません」 「戻ってきてくれて、ホッとしたよ…」 「ありがとうございます…」 感動の再会を終えて… 僕らはまず事務局へ行き、復学の手続きを済ませた。 それから、みんなで律也の部屋に集まった。 ここでも、僕らの復学とクリスマスを兼ねて祝おうということだ。 正田がいろいろ、飲み物など用意しておいてくれた。 「乾杯〜」 「おかえりなさいー」 正田が用意したスパークリングを、 普通のグラスに注いで、僕らは乾杯した。 「わーこれ、美味しいですねー」 雅巳は初めてだったらしい。 正田が雅己に言った。 「それ、言っとくけど、飲み過ぎ注意だからね」 「そーなんですね、こんなに飲みやすいのに…」 僕も続けた。 「飲みやすい酒ほど危険なんだよっ…」 「へえー、郁も割と詳しいんだね」 「そりゃ…だって、バーで働いてきましたから…」 「そーなの?!」 「そーだ、ちゃんと聞かせて。今までのこと」 正田が、煙草に火をつけながら、言った。 その彼の仕草を見て… 僕は、あの日のことを思い出した。 「…あれって、マリファナだったんだね」 「ゲホッ…ゲホッ…」 正田が慌てて咳き込んだ。 「ゲホッ…ああそーか…始まりは、あの夜か…」 「くっくっくっ…」 「あんときは、悪かったな…酷くして…」 「ううん…僕、正田さんのセンス、嫌いじゃないよ」 僕と正田のそんなやり取りは、 以前の律也なら、とっくに正田に食ってかかってるであろう場面だったが… 今日の律也は、静かに黙って聞いていた。 僕は、歌舞伎町であった出来事を、彼らに話した。 弾き語りの青年や、 新宿公園近くの店のマスターが出てくるところでは、 律也も、加わってきた。 律也と再会して、彼が怪我しての〜 ここに戻ってくるまでの、盛りだくさんな話が、 ひと通り終わったところで、正田が言った。 「そこって、可淡て人いた?」 「えっ…可淡さん、知ってんの?」 「親戚…」 「えええっ?!」 「家出して、勘当させられちゃったんだけどね、俺には連絡くれてた」 「そーーなんだ…」 まさかの、世間は狭いんだなー でも、何となく、妙に納得な繋がりだ 可淡と言い… 正田のセンスと言い… 「可淡のホントの名前、知りたい?」 うわーそれ、凄く興味あるけど… ここで聞いちゃいけない気がした。 「大丈夫。知らなくていい!」 だって、次郎とか雄三とかだったら… ちょっとやるせない気持ちになっちゃいそうですもん

ともだちにシェアしよう!