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黒い編入生(3)
「乾ぱーい!」
その頃、3階の恭吾の部屋には、
律也と弘真を含めた5〜6人の生徒が集まっていた。
「ここはいいね、寮のくせに、こんなに自由に出来るなんて」
「何言ってんだよ、金持ちだけだよ自由なのは。俺らなんて窮屈な2人部屋だぜー」
弘真の友だちが羨ましそうに言った。
「でも、友だちになっとけば、何でもありじゃん」
「まーね」
恭吾の部屋には色々な酒が揃っていた。
弘真は目の色を変えて、次々と飲み比べていた。
「うわっ、こんなのまで持ち込んでるんか。メーカーズマークも開けていい?ラフロイグも飲みたい…」
「どーぞ、好きにしてー」
皆、相当飲んでいるようだった。
そのうち、誰かが言い出した。
「恭吾は…彼女とかいないの?」
「えー…どうしようかな…」
「いーじゃん、白状しろよ」
「…じゃあ、どう?皆の彼女の話、聞かせてよ。そしたら俺も話すからさ…」
「よーし、いいよ。じゃ、誰から?」
そして、弘真がいちばん先に話し始めた。
「俺は、文学研究会の幹部だからねー」
「何その文学なんとかって…」
「まー中身はゲイクラブなんだけどね。結構可愛いのがいるんだ。だから俺は。今んとこハッキリつき合ってる奴は、男でも女でもいないんだけど…まーやるだけの相手には困らない感じ?」
「へえーそんなクラブがあるんだ…」
「これから新入生も入るからねー…あ、もしかして恭吾もそっちイケる?」
「んー割とイケる…」
「だったら今度いい子紹介するよー」
「マジか。前向きに考えとくわ…君は?」
弘真の話が終わると、
恭吾はその隣のやつにも訊いた。
「俺はフツーだよ。彼女は違う学校に行ってる…」
弘真の悪友たちも、次々と、自分の恋バナを続けた。
そして最後に…律也の番が回ってきた。
「じゃあ…律也は?」
「えっ…お、俺は…」
律也が口籠もっていると…弘真が横槍を入れた。
「こいつはね、もう公認なの!超可愛い子とつき合ってんだぜー」
「へえーそうなんだ…どんな子?」
「すっげー可愛いし…それに、あっちの方もすごいんだよねー」
「よせよ…弘真」
律也が止めようとしたが…
弘真は酔った勢いで、話し続けた。
「いーじゃん、皆んな知ってんだから。どうせ耳に入るのも時間の問題だろー」
そして彼は、律也と僕の馴れ初めやら、
僕が律也とつき合う前がどんなだったかを、
ひと通り恭吾に語ってしまった。
「恭吾もさ、もうちょっと早く来てたら郁とやれたのになー。今となっては律也だけだよ、いい思いしてんのはー」
「もういい加減にしろってば」
流石に律也が大声を上げた。
「まあまあ…。知らなかったよ、律也すげーカッコいいじゃん」
恭吾は2人をなだめた。
「そういう恭吾はどーなんだよ?」
律也は早く話題を変えたい一心で、
矛先を恭吾に向けた。
「そーだそーだ、お前の話を聞かなきゃね」
「…僕はね…」
恭吾はゆっくり語りはじめた。
「僕は…今はいないんだ。前の学校には、つき合ってる人がいたんだけどね…」
皆、身を乗り出して聞いていた。
「…終わっちゃったんだ。実は、割と酷いフラれ方をしてね、それがあって、転校する事にしたんだ…」
「マジかー」
「そうだったんか…それは可哀想だな…だったら尚更、俺がいい子紹介してやるよー」
「うん、ありがと。お願いするかもしれない…」
そう言いながら恭吾は席を立ち…
戸棚の中から新しい未開封の瓶を1本取り出した。
「告白大会が終わったところで、改めて飲み直しといきますか」
「おおーブルーラベルじゃん」
弘真が目を輝かせた。
恭吾は新しいグラスを人数分揃えて、氷を入れた。
「これはロックが美味いと思う…」
そして、そのグラスに、順々に…液体を注ぎ入れた。
「お前の親父…何やってる人?」
「医者だよ…さあ、改めて乾杯しよう…」
弘真の問いをサラッと受け流し…
恭吾は全員にグラスをまわした。
「それじゃ…これからもよろしくって感じかな…」
「こんな酒飲ませてもらえるんなら、いくらでもよろしくお願いするわー」
「乾杯ー」
カチャ…カチャ…
グラスのあたる音がいくつも響いた後…
全員が、グラスの中の液体を…
ほとんど一気に飲み干した。
恭吾はすぐに、皆のグラスに注ぎ足した。
でも…自分のグラスの中身だけが、
これっぽっちも減っていなかった…
上は相当盛り上がってんだろうなー
なんて思いながら…
ソファーに横になってテレビを観ていた僕は、
いつの間にか、ウトウト眠り込んでいた。
僕が目を覚ましたのは…ガチャン…という、
律也が戻ってきて…
ドアの鍵を閉めたらしい音でだった。
「…ん…律也…早かったね…?」
目を擦りながら、僕はゆっくり起き上がろうとした。
と、突然…
「…!!?」
僕は誰かに、ハンカチで口を塞がれた。
そのハンカチからは、
ツーンとくるような匂いがした。
僕はそのまま頭がクラクラして…
意識を失ってしまった…
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