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黒い編入生(6)

次の日の朝… 僕は打ちひしがれて、恭吾の部屋を後にした。 そして1階の律也の部屋の前に来た。 「…」 戸惑いながら…そっと 出来れば律也に聞こえないことを祈って… 僕は、小さくドアをノックした。 トン…… する と、 バタン!! と、中から勢いよくドアを開けられた。 「…郁!」 血相を変えた表情の律也が飛び出してきた! 「…」 「ふうーーっ」 溜息をつきながら、彼は言った。 「何だよ…どうしたんだよ…もう」 「…ごめん…急な、用事が入って…ホントにごめん」 頭を下げた僕は、 もう律也の目を見る事ができなかった。 「…じゃ、僕…もう補講…あるから…」 走り去ろうとする僕の腕を掴まえて、 律也は言った。 「じゃ、今度の土曜は…来れる?」 「…たぶん…」 「たぶん?…必ず来て、お願い!」 「…うん…わかった…」 僕は、やっと少し顔を上げ…律也を見た。 彼は少し泣きそうな顔をしていた。 「…じゃ、土曜ね」 僕はくるっと向きを変え、走ってその場を去った。 どうにもたまらない気持ちだった… 「…」 律也がもちろん、不信を抱かない筈は無かった。 でも、彼の方も… だからといって、問い詰めることも、どうする事も出来なかったのだと…思う。 階段の影から…恭吾が僕らの様子をじっと見ていた。 でも僕は、それには全く気付かず、 そのまま走って外に出た。 恭吾は、ゆっくり階段を下り… 部屋の前にたちすくむ律也を、偶然見つけた風に、 何事もないように声をかけた。 「おはよう律也…どうしたの?」 「…あ、ああ…おはよう」 「今走ってったの…律也の彼?」 「あ…うん…そう」 そして恭吾は律也に近づき、彼の顔を覗き込んだ。 そして、白々しく続けた。 「目が赤いよ、律也…寝不足?」 「う、うん…」 「なかなか寝かせてもらえなかった感じですかー」 「はっ…まあね、半分は当たってるわ…じゃあね」 面倒くさそうに答えると、 律也は部屋に入ってバタンとドアを閉めた。 「くっくっくっ…」 ひとり残った恭吾は、笑い声を押し殺しながら 自分の部屋へ戻っていった。 そして次の土曜日の夜… 恐る恐る…律也の部屋へ向かった僕の前に、 再び恭吾が立ちはだかった。 彼は、律也と弘真の部屋のある廊下の… どちらかというと、弘真の部屋の前にいた。 「今日は素手なんだな…」 「物騒なこと言わないでよー」 「何か用?」 僕は強い口調で言った。 「そりゃーもちろん。用は1つだけ」 静かにそう言いながら、恭吾は僕に近寄ってきた。 僕は彼を避けるために身体を横にずらしたが… 素早く腕をぐいっと掴まれてしまった。 「離せよっ」 恭吾は僕の腕を引っ張り… 顔を近づけて小さな声で言った。 「あんな事しといて…よくまだ律也に会えるね…」 「…っ」 僕は恭吾の目を睨みつけた。 そして空いている方の手で、彼の襟元を掴んだ。 彼はフラッとバランスを崩し… ドサッと、弘真の部屋のドアにぶつかった。 バタン。 その音を聞き付けた弘真が、ドアを開けた。 僕は慌てて、恭吾から手を離した。 「…あれ?何してんの?」 「あっ…弘真…」 急に恭吾は僕の腕を振り離し、 弘真に言った。 「丁度よかった…」 そして僕に向かっては、こう言った。 「じゃあね…君…」 そして恭吾は…弘真を強引に部屋に押し込み、 自分もその後に続いた。 「な、何? どうしたのさ…」 バタン。 僕ひとりを残して、2人は弘真の部屋に消えた。 どういうつもりだ…あいつ? どうしようもない程の不安を抱えながら… それでも僕は、律也の部屋のドアを開けた。 「…あっ、郁…」 ちょっと驚き、そして嬉しそうに律也は微笑んだ。 「律也…」 僕は何も言えなかった。 ただ、もうそのまま…律也の胸に、飛び込んだ。 「律也…君が…好きだ…」 「な、何だよそんな、急に改まって…」 そう言いながら彼は、僕を優しく抱き止めた。 「…何、久しぶりだから?」 僕は…彼のくちびるに、 自分のくちびるを押し付けるように、キスをした。 「…」 そっとくちびるを離して、律也が言った。 「こないだ約束をすっぽかしたから、そんな風に言ってくれるの?」 そして優しく微笑みながら… 僕をしっかりと抱きしめた。 「そんな風に言ってもらえるんなら、もう何度でもすっぽかしてくれていいよ…」 「…律也ってば…」 昔、冬樹もそんな事言ってたことがあったな… あのときと冬樹と同じくらい、 今の僕は、律也のことが好きだ… 改めて、そう思った。 でも…思えば思うほど…例え無理矢理にでも 恭吾に犯られた事が、どうしようもなく悔しかった。 そのまま僕らはベッドに倒れ込んだ。 律也とするのは… あの…恭吾に初めて会った日以来…だった。

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