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黒い編入生(8)

7月に入ったある日… 律也は久しぶりに外泊に出ることになっていた。 「親父の会社の周年パーティーなんだ。ホントはお前と一緒に行きたかったんだけど…」 「ありがとう…でも、期末も近いし、遠慮させてもらうよ。楽しんで来てね」 「うん…行ってくる」 律也を乗せた車を見送って… 僕はひとりで部屋に戻った。 ちょうど雅巳も家に帰っていたので、 今日は1人きりだった。 何もなければ、本当は一緒に、行きたかったけど… 今の僕には、とてもとても、 そんな長時間を2人で過ごせる自信はなかった。 久しぶりに1人になった部屋の中で、 僕は悶々と、考えを巡らせていた。 そのとき… コンコン。 誰かが部屋のドアをノックした。 「…はい?」 ドアを開けると… 「やあ…」 「…!!」 そこに立っていたのは、恭吾だった。 僕は急いでドアを閉めようとした。 「…ちょっと待ってよ、良いもの持ってきたんだ」 恭吾の言葉に、僕はふと手を止めた。 「ほら、コレ…何だと思う?」 彼が片手に持って掲げていたのは… 1本のビデオテープだった。 「…!!」 彼はニヤっと笑いながら… 僕を部屋の中に押し戻して、自分も中に入ってきた。 バタン。 ビデオテープをチラつかせながら… 彼はジリジリと僕に詰め寄ってきた。 僕は、後ずさった。 「コレ…返してあげようと、思って…」 そう言いながら恭吾は、サッとと僕に近寄り… 強引に、僕の顔を押さえつけ、口付けた。 「…ううっ…」 僕は渾身の力で、彼の身体を押し戻した。 「今度は…何を企んでる…」 すると恭吾は… 急にしおらしい表情になった。 「企んでるなんて…」 そして、急に僕に頭を下げた。 「すまなかった」 「…は?」 「君の事が、好きで好きで…たまらないんだ…」 彼は顔を上げ… すまなそうな表情で続けた。 「でも君は、律也とつき合ってるし…僕にはこういう方法しか思いつかなかったんだ…」 「…」 「コレは、最後の砦のつもりだったんだ…」 そして恭吾は、持っていたビデオテープを、 僕の机の上に置いた。 「コレを君に返す代わりに、もう一度だけ…君を抱かせてもらえない…かな…」 「断る!」 僕は即答した。 「今までの事は謝る…本当にすまなかった。ビデオも返す。もちろんダビングなんてしていない」 恭吾はそう言いながら… その場に座り込んで、僕に向かって頭を下げた。 「お願いします!本当に最後にするから…」 「嫌だ!」 恭吾は床に頭をつけて僕に訴えたが、 僕は絶対に、嫌だった。 当たり前だ。 「…そうか…そうだよな…」 恭吾は静かに頭を上げた。 そして諦めたように…項垂れた。 「それなら…せめて君の口でしてもらえないかな…」 「…」 「お願いします…本当に最後にする。金も払う」 恭吾があまりに食い下がってくるので… 僕はもう面倒になってきてしまった。 そして、言ってしまった。 「…わかったよ」 「…ホントに…あ、ありがとう!」 恭吾は無邪気に喜んだ。 そして、嬉しそうに…僕のベッドに腰掛けた。 僕はゆっくり、彼の足元に…跪くように座った。 「本当に…これで終わりにしてください」 そう言って僕は、 さっさと恭吾のズボンのファスナーを下ろし、 彼のモノを咥えた。 「…んっ…ああ、終わりにするよ…」 その恭吾の言葉を、果たして信じて良いものか… そのときの僕には判断し難かったが… とにかく、そのビデオテープを取り返すために、 そのときはもう、そうするしか無かったのだ。 窓の外で、また何かが光ったような気がした。 コトが済むと… 恭吾はポケットから財布を出し、 1万円札を…ビデオテープの横に置いた。 そして、他に何をすることもなく 「ありがとう」 と、言い残して… 恭吾はおとなしく部屋を出て行った。 「…」 しばらく考えてから、僕は… 恭吾が置いていった、そのビデオテープを掴むと 急いで部屋を出た。 そして走って…弘真の部屋へ駆け込んだ。 「どうしたの?」 「はぁ…はぁ…ちょっと…頼みがあるんだけど…」 息を切らせながら、僕は言った。 「ちょっとビデオ使わせて欲しい。でさ、5分だけでいいから、僕1人にして…もらえないかな…」 「…うん、いいよ、分かった」 弘真は、最初は面食らっていたが、 何かを悟ったのか… 言われた通り…部屋を出ていった。 それを確認してから、 僕は急いでビデオテープをデッキに突っ込んで、 再生ボタンを押した。 「…」 暗い画面の中に浮かんできたのは… 紛れもなく、あのときの自分の姿だった… 「くっ…」 僕は慌てて停止ボタンを押し、テープを取り出した。 そして、それをバシッと床に叩きつけ… グリグリと、靴の裏で踏みつけた。 「…おいっ…何やってんだよ」 5分経って…部屋に戻ってきた弘真は、 ビックリして僕に駆け寄った。 「…ごめん…これ、捨てといてくれる?」 無惨に壊されたビデオテープの残骸を、 僕は集めて弘真に渡した。 彼は黙って、それを受け取り…ゴミ袋に入れた。 「少し、飲んでくか?」 弘真が言った。 「…うん」 僕はソファーに腰かけた。 弘真が水割りを作ってくれた。 グラスを受け取り…僕は、 冗談半分、本気半分で、言った。 「…しても…いいよ」 「…バカ、しねーよ」 弘真はそう言うと…僕の頭をそっと抱きしめた。 僕は、弘真の胸で…少しだけ泣いた。

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