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律也のもうひとつの逢着(3)

美咲と律也を乗せたバイクは、 都内の大通りを幾つも曲がって進んだ。 やがて、景色は倉庫街になった。 そしてそこを抜けると… 広い道路が、どこまで長ーく伸びる… 湾岸地帯へと入っていった。 長く続いた道路の突き当たりを曲がり… すぐの所にある、割と広い駐車場に入って 彼女はやっと…バイクを停めた。 「はい、到着〜」 そう言って美咲は、バイクを降りた。 「…ここは…どこ?」 美咲の後に続いて、律也もバイクを降りた。 見渡すと…他にも何台か、車が停まっていた。 「まあ、ついてきてよ」 美咲に先導されて、律也は暗い公園の中の道を、 ずっと歩いて行った。 そのうちに、公園の木々の間から… チラチラと、オレンジ色の灯りが見え始めた。 「…あっ」 と、木々を抜けた2人の目の前に、 パーっと…オレンジ色の夜景が広がった。 「…!」 「きれいでしょ?」 「…うん…すごく…きれい」 そこは、お台場の臨海公園だった。 とても夜景のきれいなスポットで、 他にもカップルらしき2人が、何組も来ていた。 「初めて来たよ…知らなかった…こんな所」 律也たちは、海の見える手すりに、並んでもたれた。 「じゃ、今度…彼氏連れてきてあげれば?」 「…」 律也は黙って、正面のオレンジ色の光を見つめた。 その表情を見て、美咲が訊いた。 「…彼氏と、何かあった?」 「…うん」 律也はゆっくり口を開いた。 「あいつの…浮気現場の写真がさ…送られてきたんだ…何枚も何枚も…」 「えええっ?」 美咲はビックリして聞き返した。 「元々、誰とでも寝るヤツだったからね…」 「…」 溜息をつきながら、律也は続けた。 「やっぱ、俺ひとりじゃ満足できなかったんじゃないかな…って」 「…」 「他人のパトロンがいるようなやつだし…やっぱり俺なんかじゃ役不足だったんだなーと思って…」 「…」 美咲は、しばらく黙っていたが… やがて、口を開いた。 「誰がやったんだろうね、そんな酷いこと…」 「…えっ?」 律也はちょっと戸惑った。美咲は続けた。 「だってそんなの…2人の仲を決裂させるためにやったに決まってるじゃん」 「…」 律也はハッとした。 「…俺…そんな風に思ってなかった…」 「…どんな風に?」 「送ってきたやつの事なんか考えてなかった…」 「…」 「郁の…あいつの事ばっかり、責めることしか思ってなかった…」 「そっか…当事者って、そうなっちゃうんだよねー」 「…」 「よく考えてみなよ、彼氏には絶対、事情があったんだと思うよ」 「…」 (確かに…すごく何か言いたそうだった) 律也は少し冷静になった。 (郁も…弘真も…) 「俺…カーッとなって…あいつらの言い分なんて1つも聞かなかった…」 「…ちゃんと真実を知った上で、もう1度彼氏と向き合ってみたら?」 「…そうだね…」 呟きながら律也は…また遠くを見た。 そんな律也の横顔を見て… 美咲は少し淋しそうに呟いた。 「…でも…」 「…?」 そして彼女も…遠くを見ながら…続けた。 「でも…今ね、私少しだけ期待しちゃった…」 「…何を…?」 「律也が、彼氏と上手くいかなかったらなーって…」 「…」 「ごめんね…嫌なヤツだね、私…」 美咲は、冗談ぽく…肩をすくめて小さく笑った。 その表情が、あまりにも自然で可愛くて… そして夜景があまりに綺麗で… 律也は、胸がいっぱいになった… 「…」 律也は、そっと美咲の肩に手を伸ばした。 そしてその手が、彼女の髪に触れた。 「…」 次の瞬間…律也はもう、自分を抑えられなかった。 「…律…」 美咲の肩を掴むと… 律也はそのまま彼女に口付けた。 「…」 しばらくして、そっと口を離れた律也は… 小さな声でいった。 「…ごめん」 美咲は恥ずかしそうに、くるっと向きを変えた。 「…ばか…本気に…しちゃうよ」 そして彼女は、ゆっくり歩き出した。 律也もその後をついて歩いた。 (…俺は…何をやってるんだ…) 律也は、前を歩く美咲のことを、好きになっていた。 それは確実に… 僕に対する想いより、強くなっていった。

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