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弘真の奔走(1)
コンコン。
「郁…いるか?」
学院に残っていた弘真は、
必死で、ずっと僕の行方を探していた。
「…やっぱり…部屋には帰ってないか…」
僕が入っていたサークルの連中や…
文学同好会のメンバーにもあたってはいたが…
僕の事は、誰も知らなかった。
もちろん、恭吾の部屋も訪ねてみたが、
残念ながら間抜けのカラだった。
仕方なく弘真は、事務局にも尋ねてみた。
「いや…2年の滝崎郁の外出届は出てませんよ」
「…そうですか…」
少し考えて…彼はもうひとつ尋ねた。
「じゃ、3年の、黒岩恭吾は?」
「えーっと…お待ちください…あ、あったあった、出てますね、8月31日まで…」
「行き先は?」
「自宅になってますけど…」
「わかりました。どうもありがとうございました」
事務局を離れると…弘真は考えを巡らせながら、
もう一度、僕の部屋にやってきた。
コンコン。
「やっぱり…いないよな…」
そう呟きながら…彼はそっと、中に入った。
バタン。
中へ入って…机の上や、ベッドの上を、
ひと通り見回した。
乱雑で…きちんと片付いている雅己のスペースとは
だいぶ違っていた。
彼は、ロッカーも開けた。
「カバンもあるし…帰った形跡はないよなぁー」
ガタンと、ロッカーを閉め…
弘真はドアに向かって歩いた。
「…ん?」
ふと、弘真の足に…何かが当たった。
コロコロ…と転がった、小さな筒状の物体を…
彼はそっと拾い上げた。
「…発煙筒…?」
それはまさに、恭吾が僕を連れ出すときに使った、
白い煙を出す発煙筒の燃えかすだった。
弘真はそれを見ながら考え…
そして、結論を出した。
「やっぱり、あいつが郁を連れていったに違いない」
そして、急いで自分の部屋に戻り、身支度を整えた。
「律也に…知らせないと…」
そのまま彼は外出届を出し…
タクシーで学院を出た。
そして、律也の実家に向かった。
律也の家のすぐ近くまできて、
弘真は、タクシーを降りた。
そして、彼の家に電話をかけた。
「…あ、律也…居てくれてよかった」
「…弘真、何…どうしたの?」
「今、お前んちのすぐそばまで来てるんだ。行ってもいいか?」
「いいけど…」
「じゃ、すぐ行くから…よろしく」
ガチャン。
電話を切って…弘真はそのまま、
彼の家の正面門に向かって歩いていった。
電話の向こうの律也の声が…
妙に元気そうだったのが、少し気になった。
すると、その門から…
1人の女の子が出てきた。
弘真は少し驚いたが、そのまま玄関に向かった。
その女の子は、弘真の姿を見つけると…
ニコっと笑って会釈した。
そして、すぐ脇に停めてあったバイクに乗り込んで、
すぐにエンジンをかけ、発車していった。
弘真はそれを、目で追った。
「やあ…」
律也が、門から顔を出した。
「わざわざ来てくれて、ありがとう…どうぞ」
「…今の…誰?」
「幼馴染だよ。俺が夏休みだからって、来てくれてたんだ…」
「そうなんだ…悪かった…かな?」
「そんなことないよ…」
弘真は律也の後に続いて門をくぐり…
家の中へ入っていった。
そして、広い玄関を抜け…
2階にある、律也の部屋に通された。
「お前が元気そうで安心したよ…」
「…そう?」
「でもよかった…これでやっと落ち着いて言い訳ができそうだ」
「こないだはごめん…頭ごなしに怒鳴ったりして」
「いや…でも今日は、頼むから最後まで喋らせてくれよ」
「…うん」
そして弘真は、僕から聞いた事を全て語った。
「恭吾がいちばん最初に、お前や俺に近付いたのも、ハナから郁が目的だったんだろうな。あいつが最初に犯られたのは、あの歓迎会の日だったんだ。最後に開けた酒、覚えてるか?おそらくアレに睡眠薬か何かが入ってたんだと思う」
「…」
「俺たちが朝まで起きてこないようにね…やつは入念な計画を立ててたんだ」
律也は黙って、弘真の話を聞いていた。
「俺に、郁に誘惑されたって言ってきたのも…それを聞いて俺が、お前に内緒で郁に会いに行く事を計算済みだったんだ。あんな写真を撮るために…」
「…」
「あいつは、自分の意思でなく恭吾に犯られた事で、ものすごごく苦しんでた…」
語りながら…弘真は、顔を歪めた。
本当に辛そうな、泣きそうな表情になった。
律也は、そんな彼を見て…
少し驚いた。
「ビデオ叩き壊してるときの、あいつの顔…お前に見せたかった…可哀想に、あいつ…」
そしてハッと思い出したように、彼は続けた。
「そうだ…あいつ、また連れて行かれたらしいんだ」
「えっ?」
「たぶんまた薬使われて、強引に連れ出されたんだと思う…」
「…どこに?」
「そんなの分かるかよ。そうだ、とりあえず、恭吾んちに電話させてくれる?」
「…わかった」
弘真はポケットからメモを取り出すと…
律也の部屋の電話の受話器を取り、ボタンを押した。
事の次第を全て受け入れた律也だったが…
それでも、あの写真の中の、
恭吾と絡み合う僕の姿が、頭から離れなかった…
それに、そんなに苦しかったときに、
自分ではなく、弘真に助けを求めたことも、
心のどこかに引っかかっていた。
そして何より、律也の頭の中は…
いつの間に湧き上がって止まない
美咲への想いが…いっぱいになっていたのだ。
(…ごめん…郁…)
それが…その時の律也の正直な結論だった。
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