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弘真の奔走(2)
「あの…学校の友人の正田と申します」
弘真は受話器に向かって言った。
「恭吾くんは…あ、そうですか…あの、行き先はご存知ないですか?…ああ、そうなんですね、じゃあお宅には全然顔出してないんですね…あ、別荘の方にもですか…分かりました、ありがとうございます」
チン。
ひと通り話し終えて、彼は受話器を置いた。
「何だって?」
律也が訊いた。
「とりあえず家には居ないし、別荘使ってる形跡も無いって。ただ、恭吾自身で管理してる物件がいくつかあるんだって。だけどそれに関しては、あいつ自身しか場所知らないから、家の人たちは分かんないってさ…」
そう言うと弘真は、どっかりその場に座り込んだ。
「…じゃあ…調べようが、無いね…」
律也が小さい声で言った。
「…!?」
その律也の言葉に、弘真は驚いた。
去年、僕が学院を出て行ったとき、
あんなにも必死で僕を探そうとしていた律也から…
まさか、そんなにもすぐに、諦めの言葉が出るとは!
「律也…お前…」
弘真は、さっきの女の子の事を思い出した。
「お前…もしかして…さっきの女に惚れたのか」
「…」
律也は、黙って横を向いた。
「…それならそれで仕方ないよな…」
弘真は、溜息をついた。
「わかった。あいつは、俺1人で探す…」
弘真は立ち上がった。
そして、部屋を出ていこうとした。
「あ、いや…俺も行くよ…」
律也は慌てて、彼の後を追った。
「…そうだよな…お前の気持ちがどうであれ、郁にとっては、お前が探してくれるのが、いちばん嬉しい筈だから」
弘真は、少しだけ…淋しそうに言った。
2人は、律也の家の門を出た。
「ひとつだけ…心当たりがあるんだ…」
弘真は言いながら…
手を挙げて、タクシーを捕まえた。
「いったん学院に戻る。ハッキリした事が分かったら、また連絡するから」
「…」
「あいつの居場所が分かったら…お前を連れてく」
そう言い残して…
弘真はタクシーに乗り込み、すぐに出発していった。
「…」
彼の乗せた車を見送りながら…律也は考えた。
…俺は、本気であいつの事が好きだった。
好きだった…?
今は…今は違うのか…?
あんなに、あんな思いまでしてあいつを追ったのに…
何で今俺は、そんな風に考えてる…?
そして、自分の正直な気持ちを振り返った。
…美咲。
俺は、彼女に惹かれてる。
所詮、俺は…ゲイにはなり切れなかったって事か?
あんなに…
あんなに好きだったのに…?
自分を含めて…
人の心をどうこうするなんて事は、出来ないのだ。
律也が、僕より美咲の事を…
好きになってしまった以上、
もう、誰にもどうすることも出来ないのだった。
そして彼は…再び心の中で呟いた。
ごめん…郁…
律也は何とも言えない気持ちで…
再び自分の家の門をくぐった。
弘真が学院に戻ったのは、もう夜中だった。
彼はゆっくり階段を上り…
長い廊下を歩いて行った。
弘真は、もうひとつ情報を握っていた。
こんな夜中に…まだ灯りのついている、
1つの部屋の前で、彼は立ち止まった。
『写真同好会』の看板が出ている部屋だった。
コンコン…
弘真はドアを叩いた。
「…はい?」
中から声が返るや否や…彼は勢いよくドアを開けた。
「…!!」
中にいた生徒は、弘真の顔を見ると
一瞬表情を変えたが…
またすぐに冷静を取り戻して、言った。
「何か、ご用ですか?」
「服部って…お前?」
「…そうですけど」
弘真はポケットから、律也の部屋から持ち出した、
例の写真を取り出した。
「これ撮ったの…お前だろ」
「…」
服部と呼ばれた生徒は、何も答えなかった。
弘真は続けた。
「お前…黒岩恭吾と一緒に編入して来たんだろ?」
「…」
「前の学校にいたときから、あいつの影で、ずっとこんな事やってたんだろ?」
「…」
服部は、それでも黙っていた。
弘真は、更に続けた。
「服部修一って、お前の親父は、その世界じゃ名の知れたスクープカメラマンだよな。お前もメッチャ素質あるよなー」
「そこまでご存知なら、もう隠す必要はありませんね。そうですよ、それを撮ったのは僕です」
服部は、そう言いながら椅子から立ち上がった。
「それで?僕に文句を言いに来たんですか?」
「いいや…お前なら、恭吾の行き先を知ってるんじゃないかと思ってね…」
「知ってますよ」
服部は、しれっと言った。
「…教えろ!」
弘真は思わず彼に詰め寄った。
「ちょ…ちょっと待ってくださいよー」
服部は、弘真を両手で押し戻しながら言った。
「教えてもいいけど…いくら貰えます?」
弘真は、一瞬答えに詰まったが…すぐに言った。
「い…いくらでも出す!」
「…ふっ…あはははっ…」
服部はそれを聞いて笑い出した。
「あはは…嘘ですよーお金なんて要りませんよー」
そう言いながら、
ズボンのポケットから、1枚の紙を取り出した。
「黒岩さんに言われてたんですよー。もし誰かが自分の行き先を訊いてくるようだったら、これを渡してくれってー」
「…」
そして彼はその紙を、弘真に渡した。
そこには、とある場所の住所が書かれていた。
服部は、また椅子に座って言った。
「きっと日野さんが来るって言ってたのにな…」
彼は楽しそうに笑いながら、続けた。
「まさか、正田さんが来るなんてねー」
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