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律也と冬樹(2)

そして結城は、2人を車に乗せて、出発した。 「あなたの言った通りでしたね…」 車の中で、律也は小さい声で、冬樹に言った。 「あんまり当たって欲しい方じゃ無かったけどね…」 律也は続けた。 「俺、あいつと別れます。俺がこんな風に考えてるようじゃ、あいつに申し訳なさすぎる…」 「さっきは相応しくないなんて言っちゃったけど…でも郁は、まだ君のこと…好きなんだよ?」 「だからこそ…です。一刻も早くはっきり伝えることが、きっとあいつの為にもいちばんいいと思います」 「…そうだね…」 冬樹は、窓の外の、流れる夜景を見ながら呟いた。 「君の心が揺らいでしまった今は…それがいちばん、郁のためかもしれないな…」 2人のやり取りを、結城は黙って聞いていた。 やがて、数時間後… 車は、弘真の待つ病院に着いた。 3人は、夜中の暗い病院に…静かに入っていった。 広い待合室の…隅っこの椅子に座っている弘真を、 律也がいちばん先に見つけた。 「弘真!」 「あ、ああ…律也、お前も来たのか…」 弘真は立ち上がって、彼らに近寄った。 結城が、弘真に向かって、頭を下げた。 「初めまして、結城です。郁が世話になって、本当にありがとう」 「…あっ…どうも…正田です…」 弘真は結城を見て、とても驚いた様子だったが、 すぐに落ち着いて、僕の様子を話しながら、 地下への階段の方へ3人を案内した。 「今、地下の病室にいますが、まだ直接会える状態じゃありません」 そして彼らは階段を下り… 地下の長い廊下を、静かに歩いていった。 そして、僕の居る部屋の前で止まった。 「暗いから分かりづらいと思いますけど…」 ドアに小さな小窓があり、 外側からカーテンがかけられていた。 弘真は、そのカーテンを少し開けて、中を覗いた。 「…ちょっとすごく、可哀想なことになってますけど、見ます?」 結城は、そっと…その小窓に顔を近づけた。 本当に暗くて、何となくしか分からなかったが… 両手両足を拘束され、口も塞がれた状態で、 時々ビクビク震えながら、首を振っている、 そんな僕の姿が、そこから確認できた。 「…誰っていったっけ?」 「えっ」 「相手の子の名前…」 「…あ、黒岩恭吾…ですか?」 弘真は少し慌てた感じで答えた。 「黒岩ね…」 そう言って結城は… とても険しい表情で、ドアから離れた。 「あ、やつは既に捕まってます。病院が、すぐに通報してくれたので…」 「そうか…」 それでも結城は、平静さを保っていた。 続いて、律也と冬樹が小窓を覗いた。 「…!」 「…」 律也は、絶句してその場に崩れ落ちた。 そんな律也の肩を叩きながら、 弘真は結城に言った。 「長くて2〜3日かかるそうです。とりあえず上で待ちましょう…待つのも辛いですけど…いちばん辛いのはあいつだから…」 それから結城は、弘真に案内されて、夜間窓口へ行き、諸々の手続きを済ませた。 しばらくして結城は、待合室に戻ってきた。 そして律也と冬樹に言った。 「悪いが私は、これから東京に戻る」 「そうですか…俺はここに残ります」 律也が言った。 「君は…どうする?」 結城は、冬樹の方を見て、訊いた。 冬樹はしばらく考えてから、答えた。 「…ここに…いてもいいですか?」 「構わないよ…そうだな、明後日の夜に、また来る」 「そうですね…その頃にはきっと、落ち着くと思いますよ」 弘真も結城に言った。 「正田くん、色々と面倒をかけてすまないが、よろしくお願いします。本当にありがとう」 結城は改めて、弘真に礼を言った。 「いいえ…それじゃ、お気をつけて」 そうして結城は…1人、病院を出ていった。 もう、空がだいぶ青白くなっていた。 結城を見送ってから、 3人は、待合室の隅の方のベンチに座った。 「そういえば…こちらは、どなたなのかな…?」 弘真は、冬樹の方を見て言った。 「ああ、結城さんの親戚の方だって…」 律也が答えた。 冬樹は、弘真に右手を差し出しながら、言った。 「正田くんだよね、本当にありがとう。郁の事は、結城さんからよく聞いてます」 「どうも…」 弘真は、その手を握り返しながら、 何となく不思議な表情になった。 そして律也が…弘真に話し始めた。 「弘真…俺、郁と別れる事に決めた」 「ええっ…だって、郁がお前を裏切ったんじゃないのは分かったんだろ…それでも別れるって言うのか?」 弘真は声を荒げた。 律也はそれを制しながら、続けた。 「それでも…だよ。俺は…」 「あの女の方がいいのか?」 「…そうだね、美咲に出逢ったからかもしれないけど…やっぱり俺は、芯からのゲイじゃなかったのかもしれない」 「だって、郁の事は、好きだったんだろ?」 「うん…好きだった…自分でも不思議なくらい…」 「一時の気の迷いだったとでも言うのか?」 「そんなんじゃない…本気だった…」 「だってお前、そう言ってんじゃないかよ!」 弘真は、辺りに響き渡るほどの大声になっていた。 「…お前…ずいぶんムキになるんだな…」 律也が冷静に言った。 「だってお前…あいつが可哀想だよ…あんなにお前の事が好きなのに…あんな目に合って…その上、お前にまでフラれたら…」 「…可哀想だけど…俺の気持ちがこうである以上…ハッキリ言わない方が、もっと可哀想だろ…」 「…」 弘真は首を振って、下を向いた。 涙が…彼の頬を伝った… 「弘真…」 それを見て、律也は驚いた。 「…お前…お前も郁の事…好きなんじゃないのか?」 弘真は慌てて、手の平で涙を拭きながら言った。 「あ、当たり前だろ…あいつの事、嫌いなやつなんていねーよ…ははっ…お前があいつと別れてくれたら、後釜に入りたいのは、俺だけじゃないさ…」 そう言いながら弘真は立ち上がり… 灰皿のる所まで行って、煙草に火をつけた。 冬樹は黙って… そんな2人のやりとりを聞いていた。

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