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爽やかな冬休み(2)

僕は、鏡餅を玄関に飾ってみた。 「…これ、正月によく見かけるよな」 「えっ、鏡餅も知らないの!?」 「あ、あー鏡餅ね」 「結城さんて、ホントに庶民の物を知らないよねー」 「鏡餅くらい知ってるさ…ただ、現物は初めて見た」 ホントに、この人って、 どーいう環境で育ったんだろうか… ピンポーン 呼び鈴が鳴った。 結城は、受話器を取った。 「はい…はい」 すぐに応答して、彼は受話器を置いた。 「酒屋の配達だ。空き瓶持って出てくれるか?」 「はーい」 僕はキッチンの一角に溜まっている ウイスキーやらの空き瓶を何本も抱えて、 玄関に行って、ドアを開けた。 そして、新しい酒類を受け取った。 「まいどー」 「…ありがとうございます」 僕はそれらを、リビングに運んで、戸棚に閉まった。 日本酒も1本あった。 「結城さんが日本酒って、珍しいね…」 「正月にしか飲まない」 「…」 「正月は、日本酒なんだろ?」 うーん だいぶ大雑把な解釈だけどなー ま、いっか、かまぼこと数の子買ってよかった。 そっか、酒類はこうやって配達してもらってるんだ。 自分で買いに行く事はないんだなー あとはお腹空いたらデリバリーか。 会社だったら、他の人が調達してくれるんだろうし、 普段は家で食べる事も滅多にないんだろうけど… それにしても、食に関して… ずいぶん味気ない生活だよなー いつも、僕が居てあげられたらいいんだけどな… 「腹減ったな、何か作ってくれたのか?」 「あ、うん…」 そっか…年越し蕎麦にあう酒が…あるかな 「焼酎なんて、ないよね?」 「んー無いな」 「ワインでいいかなー」 「あーワインなら、そこにいくらでもある…」 ここのキッチンの片隅には、 家庭用の小型のワインセラーがあるのだ。 開けてみると… 赤白さまざまなワインが、ぎっしり入っていた。 「これじゃあ…逆に選べないよー」 「どんなのがいいんだ?」 結城は、中を覗きながら言った。 「あんまりギューってしてないのがいいかな…」 「ギューって何だ…」 「フワッとしてて、あんまり甘くないのがいいな」 「…よく分からんな…白と赤はどっち?」 「海老天だから、白なのかなー」 的を得ない僕の説明に、痺れを切らした感じで、 結城は言った。 「…要は、和食に合えばいいんだろ」 そして、風景画のラベルの… 白ワインを1本取り出した。 僕はキッチンで…さっき仕込んだつゆを温めて、 蕎麦を完成させた。 ちょっと麺が延びてしまった感もあるが… ま、つゆも素だし天ぷらも惣菜だし ましてや、サバイバル料理だったし… 大目に見てもらおう。 僕はそれを、食卓のテーブルに運んだ。 ワイングラスも並べた。 「…」 あっそうだった! この人、ワインの栓開けられないんだった… 「結城さん、あんなにあるワイン…いつもどうやって飲んでるの?」 「客が来たときしか飲まない」 「…」 なるほど… あくまで自分で開けられるようになろうって気は これっぽっちも無いんですねー 僕は、オープナーで栓を開け… ワインをグラスに注いだ。 「いただきます…」 僕らは乾杯した。 結城の選んだワインは…まさに、 ギューっとしてなく、フワッと軽い口当たりな、 程よい辛口で、素晴らしく美味しかった。 「…これが、年越し蕎麦っていうのか?」 「うーん、温かい蕎麦か、ざる蕎麦かは、家庭によって色々だけどね…」 やっぱりちょっと延びてるな、 これじゃ、赤とか緑とかと同じレベルだ。 もっとちゃんとしたのを味わって欲しかったなー 「ホントは、もっと美味しいモノなんだよ…」 僕は言い訳をした。 「まな板も包丁も…ザルも無かったから…」 「俺が知ってる蕎麦とは違うが、これはこれで十分美味いと思うけど…?」 そーですよね、 いつもの蕎麦は、とても高級なヤツでしょうから… 全く別物でしょうねー それでも、 その素晴らしく美味しいワインのおかげもあり… 僕もそこそこ、それはそれでの味を楽しんだ。 まー僕はもともとは庶民ですから。 僕は、ふと思って…訊いた。 「結城さんは、結婚しないの?」 「…っ!」 結城は、ワインを詰まらせそうに、なった。 「…ゲホッ…何でまた、急に…」 「料理とか色々…いつもやってくれる人がいたらいいのにねって、ちょっと思った」 結城は微笑みながら…冗談半分に言った。 「ずっとお前がやってくれてもいいんだよ」 「もちろん、居るときはやるよー」 僕はうっかり聞き流してしまった。 「とりあえず、邪魔じゃなければ、もうちょっと料理道具を買い揃えても良い?」 「…構わないよ」 ちょっぴり拗ねたような、淋しそうな表情で、 結城は、グラスのワインを飲み切った。 あ、そこ…聞き流しちゃダメだったか… 「…ずっと居るよ」 「…」 「僕でよければ…ずっと結城さんの側にいるよ」 …それは、 そのときその瞬間の、僕の本心だった。 結城は、一瞬… 何とも言えない穏やかな表情になったが… またすぐに、冷静に戻った。 「ふふ、ありがとう…冗談でも嬉しいよ」 結城は、そう言って聞き流した。

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