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新たなはじまり(3)

数分後…圭が体温計を持って戻ってきた。 弘真は僕の熱を測った。 「うわっ…40度もある…こーれは病院連れてった方が良さそうだなー」 そう呟くと彼は、 すぐに僕の身体を、ベッドから抱きかかえた。 「病院の場所…調べられる?」 「あ、うん…確か下に地図があったと思う…」 「俺の車で行こう…お前は後ろで郁を押さえながら、ナビやってくれるか」 「…わ、わかった」 そして、後部座席に僕と圭を乗せ… 弘真は車を発進させた。 しばらく進んでから… ようやく落ち着きを取り戻した圭は、 ふと、思い付いて弘真に言った。 「そっか…弘真って、郁とつき合ってんのか…?」 弘真は、前を向いたまま答えた。 「…いや、つき合ってるわけじゃない…どれかっていうと、俺の一方的な片思いだな…」 「えっ…」 「でも、そーいう関係ではあるよ…たぶん、さっきお前と郁がしたみたいな…?」 「…」 それを聞いて、圭は黙ってしまった。 そして、 僕の肩を抱いていた手に、少し力を込めながら… 僕の顔を覗き込んだ。 「次どこ曲がるんだ?」 「…あ…え、えーと…まだ当分真っ直ぐで大丈夫…」 僕が気付いたときは… 病院のベッドの上だった。 「…!」 弘真が僕を見下ろしていた。 「気が付いた?」 「…弘真?…えっ…あれ…どうして…?」 彼は僕に訊いた。 「…覚えてる?」 僕は一生懸命に…記憶を辿った。 「…階段の途中で、すごく気持ち悪くなったんだ…」 「…それで?」 「…」 僕は…やんわり思い出した。 「怖い夢でもみた?」 弘真は、冗談ぽく笑いながら言った。 「…う、うん…すごく、嫌な夢だった…」 と、弘真の後ろに、 圭の姿を…僕は見つけた。 「…あ、圭も…いてくれたんだ…」 「…えっ?」 圭は、ちょっと戸惑いながら言った。 「郁…覚えて…ないの?」 「…何を?」 「…何って…いや…その…」 「こいつが、倒れたお前の面倒みてくれてたんだよ」 弘真が口を挟んだ。 「そうだったんだ…ありがとう…ごめんね…」 「…」 圭は、黙って微笑んだ。 「具合はどう?」 弘真は、僕の額に手をあてながら言った。 「まだちょっと熱いかな…」 「…うん、大丈夫ぽい…」 「ただの風邪だってさ、多分、たまたま体調が悪くて、迷走神経反射が起きたんだろうって」 「歩けるようになったら、帰って大丈夫だってさ」 「…そっか…寝不足気味だったからなー」 僕はゆっくり上体を起こしてみた。 もう、サーっとはならなかった。 様子を見ながら…僕はゆっくりベッドから下りた。 「立てる?慌てなくていいけど…」 「…大丈夫みたい…」 まだ少し熱が残っていたらしく、 頭が少しフラフラはしたが… 歩けないほどではなかった。 「じゃあ、戻ろうか…」 「うん」 僕は、弘真に支えられながら、病室を出た。 弘真は、車のキーを圭に渡して言った。 「先乗ってて…会計済ませてくる」 「…わかった…」 圭は、僕の腕を支えながら、 病院の玄関を出て、駐車場に向かった。 「…ごめんね、面倒かけて…」 僕は彼に言った。 「ううん…全然…ちょっとビックリしたけどね…」 圭は、戸惑いながらも、平静を装って答えた。 (覚えてないのか…) 彼は、少し複雑な気持ちだった。 車に着くと、圭は後部座席のドアを開けた。 「横になる?」 「…うん、そうする…」 僕は後ろのシートに、ゴロンと身体を倒した。 圭は、ドアをバタンと閉めて… 自分は助手席に乗り込んだ。 そして…彼は、僕に訊いてきた。 「…あのさ、変なこと訊いてごめん…お前と弘真って、つき合ってんの?」 「…えっ…何で?」 「あ、いや…なんか、ただならぬ中を感じたから…」 僕は、答えた。 「…いや、つき合っては…ないよ」 「…そうなんだ…」 「…」 そのとき僕は、 何で圭がそんな事を訊くのか、分からなかった。 ほどなく、弘真が車に乗り込んできた。 そして僕らは、再びあの別荘に戻った。 もうすっかり、夜になっていた。 「大変だったんだな…郁、大丈夫なのかよ」 「…うん、たまたま寝不足だったから…でも大した事ありませんでした…お騒がせしましたー」 「でも…絶対ムリすんなよ!」 弘真が、僕の頭をポンと叩いた。 「…分かってるよ」 「じゃあ俺は、これで帰るわ…あ、それ差し入れ…」 彼は目の前の、ビールの段ボールを指差した。 「もう帰っちゃうんだ?」 「ああ…すっげー後ろ髪引かれるんだけどさ、ちょっと他に約束入れちゃったんで、今晩中に東京に戻らないといけないんだ…」 「モテるからねー弘真は…」 一輔が悪気なく言った。 「…そーいう事、悪いね、郁」 「分かった…」 そして僕は、1人で弘真を車まで見送りに出た。 「お前がつき合ってくれてたら、こんな面倒な事ないのになー」 「…ふふっ…ごめんね」 弘真は、そっと僕に口付けた。 「マジで、無理すんなよ」 「うん」 「あと…」 言いかけて… 弘真はやっぱり、やめた。 「何でもない…練習、頑張って…」 「うん…ホントに色々ありがとうね、弘真…」 そう言って…僕は、 彼の車が見えなくなるまで手を振った。 そのとき弘真は…本当は、こう言いたかった。 「圭に気をつけろ…」

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