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新たなはじまり(4)

次の日の朝には、すっかり熱も下がっていた。 「おはよう、郁、大丈夫?」 「はい、おかげさまでー」 それぞれ簡単に朝ご飯を食べてから、 早速、練習が始まった。 とりあえず、新曲2曲を形にするっていうのが、 この合宿の大きな目標だったので… 演奏隊は、何度もそれを繰り返し、 試行錯誤を重ねていった。 僕はそれを、聞きながら… メロディーを口ずさんでみたり、 歌詞をイメージしてみたり…っていう 初めての作業に戸惑っていた。 そうこうしているうちに、 あっという間に昼になってしまった。 「お疲れーとりあえず休憩しよ、14時くらいからまた始めよう」 「ふうーなんか集中したー」 「でも、何か良い感じになってきたじゃん」 「どう…何とかなりそう?」 一輔が訊いてきた。 「とても難しいです…」 僕は溜息をつきながら答えた。 「でも、たまに聞こえてきたの、良い感じだったよ」 「ホントですかー」 「うん…サビは、あんな感じで良いと思う」 「…わかりました」 「昼ごはんどーする?」 「何か作るか…」 「あ、僕やりますよー」 「マジか、お願いしていい?」 「はい」 慣れない事やって疲れたので、 気晴らしにちょうど良いと思って… 僕はキッチンに入った。 この場合は、パスタかな…麺いっぱいあるし。 野菜は… 僕は冷蔵庫を開けた。 トマトときゅうりしかない… あとは、玉ねぎか… 牛乳あるけど、小麦粉あるかなー 僕は、ガサゴソと、戸棚を捜索した。 何か、僕が料理する環境って、 いつもこんなんだな… なんて、思いながら。 小麦粉は無かったが、 かけるだけのパスタソースがいっぱい出てきた。 やる気ない人が買い物した感じだなー ま、いっか… ツナ缶あるし、 玉ねぎとツナを足して、味付けはソースに頼ろう。 僕は早速、鍋にお湯を沸かした。 フライパンも準備した。 まな板と包丁も、ちゃんと、あった。 鍋もフライパンも、まな板も包丁もあるって、 なんて充実してるんだろうー 僕は、結城の家のキッチンを思い出しながら、 ひとりでクスッと笑った。 「何か手伝う?」 言いながら、圭が入ってきた。 「あ、お願いしまーす」 「何したらいい?」 「お湯沸いたら、麺茹でてください」 「わかった」 僕は、フライパンに火をつけた。 そして、ツナ缶と玉ねぎを炒めた。 圭は、パスタを鍋に入れた。 「こんくらいかなー」 「まー皆が食べ切れるくらいで…」 いったん火を止めて… 僕は、トマトときゅうりも切った。 食器棚も充実していた。 僕は、適当な小皿を4つ出し… トマトときゅうりを適当に分けて盛った。 「そろそろいいかな…」 僕は、パスタを1本取り出して味見した。 そしてハッと気付いて、また戸棚を漁った。 ザルもあった! なんて良いキッチンなんだー 「上げてください」 圭は、鍋のパスタをザルに上げた。 僕は再びフライパンに火をつけ… きのこクリームパスタソースってのを、 2袋投入した。 そして、茹で上がったパスタもザーッと入れて、 絡めていった。 「へーすげー美味そうじゃん」 横で見ていた圭が言った。 「あ、お皿〜出しといてもらっていいですか?」 「わかった…」 圭は、食器棚から、 バタバタとお皿を4まい出して並べた。 僕は火を止めて… 出来上がったパスタを、皿に盛り付けて行った。 僕がフライパンやらザルやらを洗っている間に、 圭が、出来上がったのを、向こうへ運んでくれた。 「おおーちゃんとした料理だー」 「美味そうー」 「ツナときのこのクリームパスタ、サラダ付き…って感じですかねー」 「いただきまーす」 「…美味っ」 「うん、美味いー」 まあ、基本レトルトパスタソースの味ですから… 「茹で加減も絶妙じゃん」 「あ、茹でてくれたの圭だから…」 「あ、いや…俺はホントに、言われた通りにやっただけだからー」 そんな感じで、彼らは、美味しそうに食べてくれた。 例え、なんちゃってな料理でも、 自分が作ったものを、 美味しいって食べてもらうって、嬉しいんだなー 僕はしみじみ思った。 食べ終わって、片付けも終えて… それぞれ…自由な時間を過ごした後に、 また僕らは、練習に戻った。 尚人は、早々にドラムの所に戻って、 1人でずっと、個人練習をしていた。 「真面目だなー尚人は…」 「いや、ドラムは家で練習できないからね、こーいう機会にいっぱい叩いとかないと…」 なるほどなー 確かに、歌だって… 鼻歌レベルだったら、どこでも歌えるけど、 ちゃんと大きな声で練習するには、 それなりの場所じゃないと出来ないよなー 学院に戻ったら… レッスン以外のときも、 あの防音室使わせてもらえるかな… なんて思いながら… そして、また… 今度は既存の曲を中心に、練習が始まった。 うん… 何か少し、前より声が出しやすい気がする。 「…郁、ちょっと上手くなってきた?」 一輔も言ってくれた。 「…そうですか?」 「…うん」 だったらよかったー 割と身体張って、レッスン代捻出してますからね…

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