10 / 206
第10話 どう考えても煽り
まるで雷に撃たれたかの様な、でも痛みは全くない、痛みの分だけの快感が溢れんばかりに俺の身体を襲った。文字通り頭から脚の先までをピンク色の絵の具で塗りたくられた程の快感。頭を空っぽにするには十分すぎる衝撃。
身体中の血が、細胞が、これはやばいものだと訴えていた。自分の身体が言うことを聞かずに必死に呼吸して、なんとかと正常な状態に戻そうとしている。舞台に輝くオペラ歌手迫真の腹式呼吸が可愛く見えるぐらい、身体中で空気を欲して、息をしていた。
「梓はやっぱり可愛いな。もっと慣れるようにいっぱい押してやるよ」
死にそうな俺が見えないぐらい目が腐っているのか、それとも本当に可愛いと思っているのかは知らない。そんな事よりさっきこいつもっと押すとか言ってやがったな。殺す気かよ、シンプルに殺す気か。
「いや、ムリムリ! だ、駄目だからな!」
今までは男として恥ずかしくないぐらいは自慰をしていた。それとは比較にならないレベルの快感が、これから与えられる。今までの自発的な快感と違って、他者から与えられる快感なんて初めてだ。気が付けばポロポロと生理的な涙が溢れていた。これはいけない、せめて最後の男のプライドはと思い無我夢中で拭っていた。でも真田がそんな俺に気付かないわけはなかった。
「大丈夫か? 悪い、お前のことよく考えてなかった。怖かったな」
さっきまで足をガッツリ掴んで離さなかった右手を急に退けたかと思うと、頭をそっと撫でられた。そのまま涙を拭い頰にそっと寄り添うように触れ続けている。どう考えてもこいつが加害者なのだが、その掌は不思議と愛おしいと思った。だから、
「今夜はやめよう。梓も辛いだろ」
そう言われたのはとても傷付いた。俺が傷付く必要なんてない筈なのに、どうしてこんなにも心が寂しいのか、俺には分からない。寂しい心はコイツじゃないと埋まらないと無意識にだが認めてしまう。
「俺が後片付けするから、もう寝てろ」
その言葉を最後に、右手が頬から離れた。やだ、もっと触ってくれ。ドロドロになった心がそう叫んでいる。穴から指が抜けていく、勝手に吸い付いたり締めたりしているアソコから、最も簡単に抜けてしまうのは、とてつもなく寂しいことに感じた。
「やだ、抜かないで……!」
無意識に絞りでた言葉に、ハッとして口を押さえたけれど時すでに遅し。真田は聞き間違いかと問いたいように俺を見ていたが、俺の反応を見てどうやら確信に変わったようだ。相変わらず優しいだけで考えは読めなかったけど、何やら勝ち誇ったような顔をしていたのは感覚で分かった。くそったれ、そうだよ、お前の勝ちだよ。
ただ思った。ここでこいつを手放したら一生後悔する。それは確信していた。わかってんだよ、これが夢の中なぐらい。こんな淫夢見るとかそんなに溜まってたのかよ俺ってそんな話じゃない。起きたら元の真田がいるだろうし、もう梓って呼んでもらえない。いいじゃないか、夢の中ぐらい俺のやりたい事やったって。
「おい、責任取りやがれ」
せめてもの負け惜しみでお前のせいだと遠回しに伝える。そうだ、お前のせいだ、俺が進んでこうなってんじゃねえよ……多分。これに関しての真田のリアクションは上々だった。別の意味で。
「……それはOKって意味でいいんだよな?」
「あ?」
急に声のトーンが低くなったと思えば、右手でバシッと掴まれた。まるで退路を無くすかのように。不安で名前を何度か呼んでも、その答えは俺を見つめる瞳だけだ。気のせいかもだが息も落ち着かない。まるでそう、獲物を前にした狼のようだった。
「止まらんかもしれねえ、いざって時は殴ってもいいからな」
不良のお前殴るとか正気の沙汰ではない。しかし、ここでまた何か言うと余計ややこしくなりそうだから、とりあえずわかったと一言返しておく。俺はこの言葉の意味を後で本気で理解した。
「おい何しようって……! 待て、や、やだ!あ、ンッ……とまってぇぇえ!」
真田は止めていた左手の動きを再開した。それだけじゃない、さっき俺がトんでしまったなんだっけか、そうそう前立腺をこれ以上ないくらい重点的に攻め立てた。俺もこいつも、完璧に理性のダムが決壊した。
ともだちにシェアしよう!