12 / 206
第12話 職業の秘密
まず異世界転移ってのは一時的にはこの世界の住人になるって事だから、この世界の特典である職業《クラス》が適応される。まあベルトルトさんにとっても俺たちにとっても誰がどの職業《クラス》になるかは運な上、再召喚するにはベルトルトさんの魔力が戻るまで1年以上必要だから、魔王を倒すこの作戦はかなりの大博打だったらしい。
まあ結果としてその賭けには勝ったみたいで、ベルトルトさんは嬉しそうに俺たちそれぞれの職業《クラス》を褒めてくれた。まあ複雑なもんだったけど。
「と、ここまでが前座で……本題はここからじゃ」
俺たちは勇者、魔王や魔物への特攻力をもった人間として、この世界の「座」のようなものに登録されるように召喚した。つまり俺たちは普通の、この世界の住人より強い力を持っているわけだ。でも、それでもあの最低最悪の魔王を倒せるのかは分からない。念には念をと、さらに細工を仕掛けたそうだ。
「お前達の中には、厳密にはその職業《クラス》にはわしの旧友、魔物達が潜んでおるのじゃ」
「魔物……ですか」
「そうじゃ。因みに踊り子のお前さんには淫魔、女淫魔《サキュバス》がおるぞ」
「は?」
俺の疑問や焦りなんてどこ吹く風、話は進んでいく。それぞれの職業《クラス》に適した魔物がいるらしく、踊り子の俺の場合は強力な魅了のスキルを保持している淫魔が最適というわけだ。しかし、それにはいい事だらけと言うわけではなく、弊害もあるようで……
戦う上で1番大切な職業《クラス》を魔物が担うと、その分能力やスキルに余計なものが継承されるらしい。肉体的には、その魔物特有の刺青が出来たり、爪や牙が鋭くなったり、場合によれば羽を生やせる事もできるらしい。因みに俺はスキルの方を継承していたみたいだ。
「お前のスキルは魅了と、強制発情と言ってな。少々厄介じゃ」
魅了。踊り子のスキルで、俺の舞を見た男の心を奪う。こんな男の舞を見ただけでクラスメイトが興奮したのはそのせいだろう。
そして強制発情。……読んで字の如く周りから興奮されたり視線を感じたりすると、「俺」が発情してしまう。これは淫魔のスキルらしい。つまり、つまりはだ……
「俺がこんな淫乱なのは、そのスキルのせいなんですか?」
「……うむ、そうじゃな」
ベルトルトさんが申し訳なさそうに目を逸らしている。俺も申し訳ない気がした、何故か。って言うかなんて馬鹿みたいなスキルだよ、俺が思ってた異世界チートと違う。俺がこんなんになっちまったのはクソッタレな淫魔野郎の性癖って事かよ。
ああなんか色々辛くなってきた、なんで俺なんだよ、もっと俺よりも可愛めで背の低い男なんて捜せばいくらでもいるだろ。俺175㎝だぜ、割とでかいぞ。鍛えてた分筋肉も周りより多いかもだし、顔も一般的だ。何故俺だった、この世界は間違っている。
「……すんません。受け止めるには時間が必要です」
「……お前さんには相当の苦を与えてしまった。もし辛ければ、ワシが元の世界に返してやるぞ」
「い、いや、それはいいです。とにかく魔王は倒します、はい……」
かと言って1人で帰るのは居た堪れない。俺がどんな状況だろうと、俺たちはこの世界の希望なんだ。それはさっきのベルトルトさんの言葉で理解できた。あと39人も勇者いるわけだけど、1人だけノコノコと帰るのはやっぱりいけない事だと思う。
誰のせいでもない沈黙が朝方の平和な客室を覆う。なんとか発破をきりたいけど、あいにくだがこの状況でそんなこと言える度胸はない。すると、まるで救世主かのように、ドアからノック音がした。
「失礼します」
低い声を聞いてドキッとした。大きなドアから入ってきたのは真田仁、あの真田仁だ。夢の中のあの感触が今でも艶かしく残っている。心の中で彼の存在を喜ぶ俺がいる事がとても恥ずかしかった。
俺の方をチラリと見たと思えば、ベルトルトさんに深くお辞儀をする。こいつがヤンキーってこと忘れそうなぐらい綺麗なお辞儀だった。
「おはようございます。申し訳ありませんが、少しだけ巳陽と話させてください」
巳陽。苗字で呼ばれただけなのに、どうしてこんなに心が寂しいんだろう。ベルトルトさんは軽く返事をして、部屋から出て行こうとする。
「真田は、随分と巳陽のことを心配しておったぞ。大丈夫じゃ、少し話をしなさい」
呼び止めようとしたが、その前に手を打たれてしまった。俺とこいつの2人だけってのはなかなか辛いというか、恥ずかしい。
「ありがとうございます」
真田は短くお礼を言う。2人っきりの話が始まった。
ともだちにシェアしよう!