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第14話 前途多難
俺はただ許可を求めただけだ。なのにこいつと来たら、思いっきし驚いている。そしてしばらくの沈黙の後、ものすごく嬉しそうな顔をして俺を見つめ直す。不良なんだからもっと怖そうなツラしろよ……ってこれはこいつに失礼か。
「梓、仁って呼んでくれ」
「……仁」
「もう一回」
「仁」
「もう一回」
「言わせすぎだ」
でこにデコピンをかましても嬉しそうにしている真田、いや仁を見て、俺は嬉しいと共に、罪悪感も感じた。こいつは元々不良。女の子にモテて、強い先輩達に囲まれてて、俺のような日陰ものを虐げる立場にいた奴だ。
そんな奴が今じゃあ1人のクラスメイトしかも男相手にゾッコンとか。可愛くも強くもない俺にプロポーズとかしてるのを、怖い先輩に見られたらどうなるんだろう。
「どうした、具合悪いんか?」
俺は自分で思ったより、顔に出やすいタイプのようだ。コイツの将来が心配なのを今はそっと横に置いて、何でもないと嘘をついた。もうちょっと休んだ方がいいと優しくしてくれる仁と話というよりは、戯れのようなやり取りをしていた。そしたら急に、外界とこの部屋を繋ぐ人間用の入り口である大きなドアが、バッタンバッタンと音を立てた。
「おい、誰だ」
さっきまでの優しい声色はどこへやら、またあのヤンキーに戻った。でも聴き慣れてるせいか、こっちの方がまだ真田仁って感じがする。ドッタンバッタンの音の主が部屋に雪崩れ込んできた。もう一度言う、入ったではない、雪崩れ込んできたが適切だ。何しろ1人では無かったからな。残り38人のクラスメイトだ。
「おい、真田だけずるいぞ!俺も下の名前で呼ばれたい!」
「そうだよ、そう言うの抜け駆けって言うんだよ!」
早々に仁が問い詰められている。本人はうっせーと一掃していたけど、一体何があったと言うのか。
「な、なんかあったのか?」
「うん。昨日の夜から俺たちライバルになった」
「は?」
詳しく聞かせて貰えば、俺が倒れた後、全員がもれなく俺に惚れてしまったらしい。その時点でおかしいけどまだ話は終わらない。で、39人の恋のライバルは、俺を手に入れたら勝ちと言う最早魔王に関係ない勝負事を始めてしまったとのことだ。
「何で俺だよ」
「可愛いから」
「可愛かったから」
「可愛い」
「エロい」
「超可愛い」
全員から可愛いと言われたって男としては複雑なもんだった。後誰だよエロい言った奴、相手男だぞ、馬鹿じゃねえの。まあ俺も仁のことであんな夢見たんだから人のこと言える立場じゃねえけど。
「ってわけでおれも名前で呼んでくれ!浅野じゃなくて奏、リピートアフタミー!」
「俺も俺も!前多って呼んでくれ」
「おいお前ら!オレの……何だっけ、ばいせん特権? 侵害するな!」
「真田、それは専売特許のこと言ってるのか?」
「べつにお前の特権じゃねえだろ、なあ梓」
いきなり下の名前で呼ばれるとか陰キャには辛すぎる。兎に角名前で呼んでくれと言って聞かないもんだから、もうしょうがない、まあこれくらいはしても構わないと、一人一人名前を呼ぶ事にした。怖かったけど梓呼びも認めた、怖かったけど。
「……梓が優しくてよかったな。だがコイツを護衛するの座は譲らねえ、このオレの物だ、手ェ出すんじゃねぇ」
「譲ってくれなくて結構だ、奪ってみせる」
「ア″ァ!? おい二家本、やんのかよ!」
「いいぜ、表出ろや」
仁はというとものすごく不機嫌になって、全員にガンを飛ばしまくってる。そして更に火に油を注がれている。
「じ、仁? 大丈夫か?」
「……お前は絶対守るから。敵からも味方からも」
強い、強い意志を感じる言葉だった。とても言い返せる雰囲気ではなく、小さく頑張れとエールを送った。
どうやら俺の、俺たちの異世界転移は、他とは違った意味で前途多難になりそうだ。
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