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第15話 グルーデンの食文化

「皆のもの、食事の準備ができた。グルーデン王国の食文化を気に入ってくれるといいのじゃが……」 さっきまで混沌としていた俺たちを、40人全員まとめて客室から出し、何やら広い部屋に連れて来られた。そこにはもう美味しそうな朝ごはんが、長いテーブルの端から端までズラリと。量は多いが、育ち盛り40人が手をつければ無くなりそうだ。 みんな腹が空いていたんだろう。さっきまで殺し合い寸前みたいな感じだったのに、飯だ飯だとテーブルを囲う椅子に座った。俺も例外じゃない。たくさん体力を使ってめちゃくちゃ腹が空いている。 「梓、ここ座れ」 仁が椅子をひいてくれた。ありがとうと言って座るが、こんなことして貰えたの初めてなもんだから、ソワソワしてしまった。仁は俺の隣に席を取る、周りから視線を感じるけど、今はそれより空腹の方が不快だ。まずは飯を食べる事に集中しよう。 『いただきます!』 中学生以来初めてクラスメイトとやったいただきます。あの頃は女の子もいて、声変わりしてない奴もいて、全体的に高かった。まあ今は……お察しだが、それでも擬似的な懐かしさは体験できる。 「美味い!」 「先にプリン食べちまえ!」 「おい、それはデザートだ」 目の色変えて、飯に有り付く様を見て、ようやく俺も一息付いた。まずは手前の食事、オムレツ、ホットビスケット、コーンスープ、シーザーサラダ、プリンの中から、ホットビスケットをいただこう。グルーデン王国のマナーがわからないから、あくまで日本のマナーだけど。 ビスケットを1つ手に持ち、俺から見て左側にあった何だろう、葡萄のジャムをスプーンでひとすくい。こぼれ落ちないようにゆっくり口に運んだ。うん。美味しい。日本よりもふわふわなのは、焼きたてだからなのか、それとも小麦などの原材料が違うのか。そして葡萄だと思っていたジャムは、ワインのジャムだとわかった。ワインは飲んなことないけど、紫の色と大人っぽい風味でなんとか推測できた。 「どうじゃ? グルーデンの食事は口にあったか? いずれも我が国の伝統的な朝食のメニューじゃ」 俺たちを傍から見つめていたベルトルトさんが前に出た。全員食べる事に夢中だから、質疑応答にはなっていなかったけど、その態度だけでも美味しいという感想は理解できる。 俺も例外じゃない。というより、グルーデンの朝食が日本で言う洋食と同じでよかった。ホットビスケットの他にも、並べられているのは洋食のそれだ。中央には、朝から肉料理やお腹に優しい豆料理、ケーキやマカロンまであるが、全てが俺たちのよく知る朝食だった。 ふわふわでこちらも焼きたてだろうオムレツを食べようと、ジャムのやつよりより少し大きめのスプーンで割ると、中はトロトロで気分はさながら高級レストラン。バター風味に甘めの味付けがマッチしている。それにしてもグルーデンの伝統的なオムレツは甘く味付けしているのだろうか、日本では珍しい。コーンスープも素材の味が大切にされていて、シーザーサラダも素人でもいい野菜が使われているとわかった。自然な甘さが心地いい。ここのシェフは誰だろう、お礼を言いたい。 全体的に甘い味付けが多いが、それでもしつこくない、自然由来の上品な甘さだ。思いの外ぺろりと平らげてしまった。 「なんか他に食いたいもんあるか?早くしねえと無くなるぞ」 仁は中央にある肉料理達のことを言っているのだろう。たしかにさっきまで山盛りだったのに、もう半分以上が無くなり無残な姿となっている。俺食うの遅いな。1番手前にある肉と言うと、あの並み居る腹をすかせたハイエナ達を諸共せずに、サクッと取ってきた。 「ありがとう。お前はもういいのか?」 「おう。これから大事なデザートをいただくぜ」 そう言いながら、最後に残していたプリンを口に運び始める。心底幸せそうな顔だ。しかも仁の皿をよく見たら、中央から取ってきたであろうケーキやマカロンなどの焼き菓子が、これでもかとある。コイツ……甘党か? 俺もプリンは最後にしようと肉を口に運んだ、ああ、ラム肉だった。やはり甘い物好きが多いのだろう。こちらも甘辛く味付けされている。さすがグルーデン。そんな事を考えながら、時間が許すまで目一杯食事を楽しんだ。

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