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第16話 魔王の根城

『ごちそうさまでした!』 完食。机の上に溢れそうなほどあった食事はもう跡形もなく消え去っていた。まあ行き先は俺たちの胃の中なんだけど。 「どうじゃ?我が国でも指折りの料理人を揃えた渾身の朝食じゃ」 そんなすごい物だったのか。確かに今まで食べた中でも一二を争うぐらい美味しかった。 「めちゃくちゃ美味かったです!」 「まさかこんなに良くしていただけるなんて……」 全員すっかりお気に召したようで、あれが美味かった、これをもっと食べたかったと、話が膨らんでいる。そして、そんな中話の方向性が180度変わった。 「で、魔王がどこにあるのかの話に移るぞ……」 全員固まった。魔王の話だ、どんな怖いやつかもわからない奴、真剣になるのも無理はない。 話によると魔王の根城は、ネモ大陸という突如として現れた第五の大陸にあると言う。この異世界には温暖で自然豊かなソミモリア大陸、砂漠に覆われ風と共に生きる工業地帯マセアル大陸、火山抱く神秘の宝庫エシィニア大陸、世界一の学園都市を持つ学者の聖地コグエ大陸の計四つの大陸がある。グルーデン王国があるのはソミモリア大陸だ。 そしてネモ大陸はと言うと、魑魅魍魎、百鬼夜行がそぞろ歩く危険地帯。しかも瘴気がそこかしこに漂い、しかも着くまでには地獄のような大嵐と、とてもではないが調べることが不可能な未開の地。 「本来なら近づくことすらも命の危険が伴うが、お前達なら大丈夫じゃ。なにしろ勇者じゃからな」 勇者パワー万能にも程がある、チートだけじゃなくてそんな耐性もあるとは。そんなのをこれから40人相手にするなんて、魔王が少し可哀想だと思ってしまった。 「ネモ大陸ってのにはどうやっていけばいいんですか?」 ベルトルトさんは、少し悩んでいた。言うべきか否かを迷ってるって感じだ。しかし嘘はいえないと、話を進めた。 「海路しかない。兎にも角にも船がないといけないが……ネモに着くまで持つほどの強靭な船はこの世界にはない……」 「どうするんですか?」 「船の設計図はある。しかし、それを作るにはコグエ大陸の、技術大国にして学園都市のコグダム都の力が必要じゃ」 広げられた大きな地図を見た。一面に計算式が大量にあって、何が書いているのかはいまいち分からなかったけれど、強そうなことは理解できた。 「コグダム都に場所に行けばいいんですね」 「うむ。この設計図を届けてほしいのだが……この図には最後の調整が必要じゃ。それが終わるまで、このグルーデンを楽しむと良い」 まさかまさかのいきなり休暇をもらってしまった。全員テンションが上がっている。まあ異世界を楽しみたいのは分からんでもない。俺もせっかくだから城下町を歩いてみたい……よく考えたら踊り子服じゃねえか。こんなんで街歩けねえよ、何して過ごそう。 「なあなあ梓、俺とデートしようぜ」 ザワザワとする中で、声をかけられた。姫咲藤村だ。明るくて友達多いけど、何故か彼女の話は聞いたことがない。俺が情報に疎いだけかもしれないが。 「きさ、いや藤村、俺こんな格好だし……デートは無理かな〜」 「いいぜ。エロ可愛いから!」 「何がいいぜだよ」 困っていると、辺りの声が少なくなっているような気がした。恐る恐る振り返ると、全員が無言でこちらをみていた。仁が瘴気纏ってる、こっわ。ぞろぞろとこちらにきたと思えば、口々に騒ぎ始めた。 「おれも梓とデート行く!」 「俺も」 「宜しいならば戦争だ」 ものすっごい大戦争が始まる予感がした。ベルトルトさんがめちゃくちゃニコニコしてる、余裕にも程がある。結局殺戮を何としてでも阻止するべく、厳正かつ恨みっこなしの最強の手段(じゃんけん)で勝負すると決まった。参加者は俺以外の39人全員だ。 3人とかに分かれたらいいのに、決まるまで39人でやり合うつもりだ。なんかもう頭痛くなってきた。控えめに言って魔王退治よりも先が思いやられる。 「よっしゃーー! 俺の勝ちだ!」 ようやく勝者が声を上げた。飯田橋希望、俺と同じく控えめな奴だったのにこんな大声を出すなんて。異世界転移で舞い上がってるのか、それともそんなに俺とのデートが嬉しいのか、後者である事を祈る。 「おい、梓……」 仁が死にそうな顔してる。大丈夫だ、希望はそんな人じゃない。 阿鼻叫喚の嵐の中、希望に城下町へ連れて行かれる。俺踊り子服なんだけど、城下は難易度高い。そんな静止は聞こえず、これから俺はどうなるのかもわからないまま、手を引かれるだけだった。

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