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第30話 ピリ辛、時々甘く

高松は言葉だけで俺の性感帯を巧みに操っている。いや正しくは高松は身体を上に起こすだけで、俺が勝手に弄っているだけだが、それでも一切として手を出さずに俺を発情させている。声だけで犯される、不意に頭の隅から現れたその言葉は想像以上に恥ずかしかった。でも俺が今受けているのは、まさにそれだったのだ。 「もうそろそろ食べ頃だと判断されたんだろう。男のそれがそこに充てがわれる、そのエロくてだらしないケツの穴にな。欲しくて堪らなかった物がもう目前、お前は恥を捨て去り自ら誘った。浅ましく腰を揺らして、欲しい欲しいと懇願した」 「んン……い、は、はぅぅ」 思い描いたのは、散々その気にさせときながら焦らしてくる仁、そして服従しきった俺だった。自分が果たしてあんな顔が出来るのかとか、快楽に服従するのかとか、一抹に思っては見たが、妄想の前に陥落した。自分のそんな様を見て仁はエロくないと失望しないだろうか、いやらしいと引かれないだろうか、どちらかと言えばこう言った不安の方が大きかった。 「何お前、妄想だけで腰揺らしてんの?」 高松に指摘されてハッとした。鏡に映った快楽しか頭になさそうなこのエロい男の腰は、確かに右は左へとユラユラ揺れていた。恥ずかしいにも限度がある。 「よく見ろ、そして覚えとけ。お前の顔や身体がどんだけエロいのか、気持ちいい事にどれだけ弱いのか」 腰の動きを止めてももう遅い。前から完璧に手を離し、後ろを攻める事に躍起になってい俺のざまは確かに男のプライドをへし折った。仁に根こそぎ刈り取られたと思っていたが、まだ一本杉のごとくチラチラ残っていたようだ。そして数少ない中の一本は、今さっき自分でへし折ってしまった。 「うぅぅ、、嫌だ、もう許して……」 気が付けば俺は泣いていた。半分は自業自得なことぐらい分かっていたけれど、それでも無意識に許しを求めた。でも高松はドSのくせに泣き顔は嬉しくないようで、調子が狂うような、そんな困った顔をした。 「泣いてんじゃねえよ、俺は真田みたいに親切じゃねえんだ。でも……」 悪かった、そう聞こえた気がした。少し優しめに頭を撫でられ、でこと肩にキスを落とされる。これで解放されると、少なくともこの瞬間までは思っていた。 「お前を辱めるのはやめる。でもまだやる」 「な、なんで……」 「エロいのが悪い」 心の底から、腹の奥から何故だと問い詰めたい、実際自由に動けたら十中八九そうしていたと思う。もっともこの発情した熱を持て余すこの身体では、反対の意を口だけで伝えるのが精一杯。高松の次なる言葉を待つしかできないけれど。 ふと気がついた。今まで掴んで宙吊りにするような形で俺の体を押さえていたが、今は後ろから抱きしめるように《《支えられている》》ことに。そっと体重を預けても、嫌そうな顔はされない。安心したのに、さっきとは違う涙が溢れそうだった。 「お前の誘うようなエロいダンスを前に、男の理性は崩壊した。間髪入れずにケツからくる重圧感は、確かに快楽へ変換されている。気持ちいいと思ったのも束の間、強い律動が始まる。衝撃的な快楽に耐えられず、衝動のまま気持ちいいと喘ぎ続けた」 身体の奥の、気持ちいいところを突かれる、そんなもの想像するだけで気持ちいいと分かってしまう。前立腺もいいけれど、奥の、名前も知らないあそこの刺激も確かに恋しい。足りない、指の長さが足りない。気持ちいいけど、イきそうだけど、物足りない。このままイッても不完全燃焼になるだけだと思うと少し寂しい。 「欲しい、んっうう……もっとぉ……」 「ふーん。こんなに欲しがりだとは」 思わず口から出た言葉を止める気なんてもう失せてしまった。まるでこれが本音だと言わんばかりなのは少し恥ずかしいけど。予想外に、俺のこのザマに笑いはしなかった。けれど、不敵な笑みで頭を撫でてくるのは少しだけぞくっときた。何か自分が得体の知れない何かといるような気がした。 「でもあーげない。俺はお前とは違って朝からしようなんて考えてねえんだよ、声だけでイけ、声だけで」 まるで俺がいやらしい人間みたいに言いやがって。いや正しいっちゃ正しいけれど。辱めないって言ったのに……頭の中の仁は、今でも俺の身体をいじくり回している。それだけでイけというのか、仁のチンコの代わりにはあまりにも心許ない指だけでイけというのか。優しいのか意地悪なのか分からないこの責めに、声に、心預けて耳を傾ける自分がいる事にしばしば驚いた。

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