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第46話 胸騒ぎ

腰をゆっさゆっさと振られると、自分からとは思えないだらしのない声が聞こえる。こうなって仕舞えばもうヤケだった、やるなら一思いに早く出せ、厳密にいうと俺がイク前に出してくれ。そうしないと健吾にこんな状況でイくド変態だって思われるだろ。仁、お前の事なんて知らん。元々超弩級の変態だからな。 しかし、我が身可愛さが9割9分を占めている自分でも呆れ返るほどの最低な思考回路は、ことごとく叩き壊される事となる。 「おかしな動きをするなよ、ンんッ……なぁん…! で〜!」 牽制した矢先、前立腺が抉られる、俺の身体が好きだと訴えている刺激がやってきた。何もしないでくれという俺の欲望が一気に掻き消される。そしてもっと弄ってくれ、激しくしてくれ、もっと気持ちいいのが欲しいと言った、とても言葉には出来ない単語が頭を覆い尽くした。 仁は俺の反応を見て大丈夫そうだと訳のわからない言葉を吐いて、更に刺激を強めた。ドチュンドチュンと、男同士で鳴るのが不自然ないやらしい水音が部屋に響き渡った。 「健吾見ないで、み、ないで、くれッ!」 「あ、梓。そんなに気持ちいいんだね……」 「違うぞ、マジ違うから!」 「やってる時に他の男の名前言うなよ」 後ろの仁をアッパーカットしてやりたい。油断して胴体から顎にかけてガラ空きになっているそこに、これでもかとグーで一発殴りたい。ただしそんな余裕はないから願望止まりだけど。あわあわしてばかりな健吾だけれど、俺は見逃さなかった。あいつ勃起してやがる。 あの健吾を主人とする下半身がそんな事するんかと疑ったが、勃起していた。見間違いかと思って凝視したが、やっぱり勃起していた。まさかまさか念のためと二度見をしたがそれでも勃起していた。もう勃起を連呼しすぎで何を言いたいのかわかんなくなっちまった。 「なんだよ、やってるの見て勃ってんのか。自分じゃやれねーもんな、哀れだぜ」 「ご、ごめんなさい」 他人である俺と仁が気付いて本人が気づかないはずがない。心ない揶揄いを受けて、何も悪くないのに頭を下げていた。可哀想に。仁も俺に対する優しさを1ミリでもいいから他人に向けられないものなのか。でも誰にでも優しい仁ってそれはなんかもう仁の顔面した他人だよな、と思い直す。 「なあ梓、俺はもうちょっとかかるけど、お前はそろそろイきたいよな?」 寝言は寝て言えと返したくなったが、息も絶え絶えですぐにでも行きそうな俺は、枕で顔を隠しながら体で息を吸うことが精一杯だった。こう言うのって男役の方がイくの早いってどっかで聞いたことがあるんだけど。こいつがあまりにも絶倫なのか、はたまた俺の感度が良すぎるのか、どちらにしても嫌だ。兎に角俺は健吾の前でイきたいと口走るわけにはいかなかった。 仁はどうやら俺の生きそうな顔がそんなに見たいらしく、枕に対して邪魔だと言いながら、俺のを奪ってベットの外に叩きつけた。これではどうやっても取れない。せめて掛け布団とは思ったが、すでに先手を打たれている。枕と丁度反対のぐらいのところに同じく叩きつけられている。 「お前てっどんな顔もエロ可愛いけど、イきそうな顔に関しては別格だな。健吾に見られたままでイこうな」 「嫌だ、いやぁ……」 抵抗はもちろんのこと、言い返すタイミングもない。もうだめだと思いきや、まさかまさかのお客という名の救世主が現れる事となる。 「そこまでだ。少しおいたが過ぎるんじゃあないのか?」 「あ?」 「ひ、ん?」 声と共に仁の動きが止まった。俺もそれに合わせてイッてしまうもんだから、自然と1人イキになってしまった。でも2人の興味が声の主に注目していたから、ある意味助かった。 「健吾が遅いと心配していたが、まさか情事中とはな……」 2人が天井を見た。俺はイッ他余韻を独り寂しく噛み締めていた。しかしその人物は上にいたらしい。 「明くん……」 「覗きするお前の方も大概だと思うぜ。どうやって入ってきた」 そいつが天井から降りてきて、無事俺の視界にも入った。あの感じだと天井に張り付いていた様に見える、中々にとんでもないやつだと思う。なあ、梅雨明。 正体は梅雨明。クラスの中でも仁に負けず劣らずの問題児だ。一言で言うととてつもなく不真面目だ。遅刻はするは忘れ物はする、終いにはサボり魔だ。テストの点自体は悪くないし、目立った悪さはしていないが、教師から不良予備軍として扱われているのは目に見えてわかる。職業《クラス》はニンジャ、かなり解釈の一致ってやつだ。 「……梓を離せ、国王様がお呼びだぜ」 国王様?そういえば健吾も同じ様な事を言っていた気がしないでもない。王様って事は、ベルトルトさんの息子?リーさん以外にもいたんだ、聞いたことがなかった。仁は不服そうだったが、すぐにスンとなった。急に大人しくなって嫌な予感はしたが…… 「梓、デコ借りるぜ」 不意にでこにキスをされた。俺からしたら今更なんと言う事はないが、2人には大きな衝撃だったようだ。健吾は目を隠しながら顔を真っ赤にしている、可愛い反応だ。しかし隣の明ときたらすぐにでも人を刺しそうな目で睨みつけていた、これは怖い。 「見ての通りコイツは俺のもんだ。クラスの奴らにも伝えとけよ」 俺の身体から仁の熱いそれが抜ける。思わずいやらしい声が出た。あいつまだイッてないのに、大丈夫か、そんなお人好しなのか惚れた弱みなのかわからない思考が俺の中に駆け巡る。 その時俺は気がつかなかった、明の健吾を軽く超える熱視線に。こうして、からりの緊張感の中、俺は服を着て王様のところへふらふらと向かう事となった。

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