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第61話 結婚超えて旦那

真っ暗だった。意識も周りも真っ暗な世界だった。そこに何も見えるものはなく、ただの一度ですら瞳は感知できない。ただそれ以外の、もっというと触覚と聴覚は早くも違和感を感知していた。 クチュ、グチュリ…… 「ん、ん、、う……」 「ちゃんと感じてえらいね、いい子だ」 耳まで届くのは自分の喘ぎ声とはちみつのような甘い褒め言葉。後ろで俺を抱きしめながらそういうのが誰かなんてのは知らないが、まるで俺を絡め取るかのようなねっとりとした誘惑に暫く浸っていたくなる。ただ下半身にある違和感には異論を唱えたい。 グチュリ、ぐちゅりと聞こえるその音源は俺の身体だ。俺の少しずつ男への抵抗を無くし始めている下半身のそこ、冷たくてゴタゴタした指の感触に一瞬パニックになるものの、第二に流れて来る快感になし崩しにされてしまう。一つの動きを感知する度にもうちょっと、もうちょっとだけと頭が馬鹿になっていく。 「ん、あぁ気持、ちいぃ。もっと、もっとぉ奥を……」 「うん、わかった。もっと感じるところ一杯されたいんだね」 前立腺、俺のエロくなるスイッチのようなものとなってしまったそこは、たとえ見ず知らずの相手であろうが快感をキャッチするように作られているよう。後ろにいる男の胸を借りながらただただ喘ぎ続けた、ああヤバい、指だけでイく。 「本当に君の身体は凄いね。身体中ビンビンにして男を誘うようにできているんだ」 「しょんなん、し、しらないです……!」 「恥ずかしがらないで。とっても可愛い、素敵だよ」 気が付けばすっかり出来上がっていた胸の突起を愛でられる。ただ声を上げながら感じていることを教える以外に能がなくなった喉を恨む。というよりあれ俺今全裸なん?うんモノホンの全裸だ。生まれたままの姿で知らない男に犯されている、これはレイプってことになるのか?うんなるな。 「嫌だ、こないで、みないで!」 今更ながらにパニックに陥った俺は、雀の涙の方がまだマシというレベルな残された力で抵抗した。ジタバタと情けなく動いていると、功を奏したのかはたまた男の気まぐれか、手が止まった。俺を確かに追い詰めていた手は思った以上に容易く止まり、そしていいようのない物足りなさ、不完全燃焼な発情した体だけが残った。 「ごめんね。いきなりされて怖かったんだね。……ちょっと動かすよ」 「待って、抜かないで……ひぃぃい!」 優しい口調の割には無慈悲と言ってもいいぐらいの遠慮のなさで、指を引っこ抜いてくる。太くてゴツゴツした指は、前立腺を思ったよりも強く抉って、半強制的に声が漏れてしまった。身体が思うように動かない俺の状況をいいことに、容易く俺の図体は動かされていく。ちょうど180度程の転換をくらったまま、俺はその人の姿を初めて見た。 「初めまして、先程は驚かせてしまったね。我、はもういいや。僕はベル、魔王ベル。君の伴侶。つまりは旦那さんだね」 うん先ずは4箇所程ツッコミたい。まずお前魔王かよ、俺が思ってたんと違う。そんなに礼儀正しいなら最初から世界を危機に晒すな、それに普段はわざわざ僕じゃなくて我って言ってんのか。あと最後にもう一つ、伴侶とは一体なんぞや! 本気を出せばツッコミ検定2級ほどは取れるはずと自負しているこの俺の実力を持ってすれば、この程度のボケのマシンガンは造作もない。しかしだがしかしだ。流石は魔王、俺もまだまだのようだとすぐに悟った。このボケしかない発言を全て無しにできるぐらい、レイプしたことを許してしまいそうになるぐらいに、こいつは…… 「ん、どうしたの? お妃様」 圧倒的に顔面がいい!!! 多分この魔王顔面偏差値ハーバード大学ぐらいある。ゾッとするぐらい真っ白な顔だけど、そのおかげで黒髪が映えるのなんのって。目はキリッとというかちょっと釣り上がっているけれど、そんな顔で優しげな表情ができるとかどんなマジックだよ、イケメンの特権か。 まるで少女漫画の王子様みたいなイケメンだ、読んだことないけど。こんなこと言ったら多分不敬になるけど、チルトさんよりよっぽど王様って顔してる。魔王なのに白馬が似合いそうとは、いったんなんなんだ。 「嬉しいよ。初対面なのに僕のことそんなに褒めてくれるんだ」 「え?あ?はい」 あれまた心読まれた?気のせいだったら申し訳ないけど、ステージにいた時にも同じようなことがあったような……まったまったちょい待ち。思い出したぞ、仁達は大丈夫か?確か俺はブラックホールみたいなのに包まれて……あれ今どこにいんの? 「ここは……どこで?」 「どこって……ステージ裏の小部屋だよ」 「近く!」 想像の何百倍ぐらいには安全なところで驚くことも何もできねえ。……まあいい、仁達が近くにいるから安全だな。このまま上手い感じにここから出たいな〜 「さて自己紹介も終わったことだし、夫婦の営みを再開しようか」 いつの間に結婚してんだ俺ら、御託はいらないからシンプルにやめて欲しい。曲がりなりにも俺にはもう結婚約束してる相手がいるんだよ…… 発情した体、旦那を名乗って来る魔王、さらに俺の頭から離れない仁の姿。三つ巴でショーをやっている時以上に大ピンチだった。

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