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第62話 俺の覚悟を聞け
「お嫁さんを手酷く扱ったりはしない。君はただ僕に添い遂げてくれればいいんだ」
難易度たっか。魔王相手に添い遂げる事をなんだと思っているのだろ。いや魔王に対して言う台詞ではないが、俺目線だと十二分に大変だと納得はしなくてはいいけどせめて理解はして欲しい。
「それはちょっと。第一旦那の何も結婚もしてないし」
俺は少し前に我が身が可愛いと言ったな、あれは嘘だ。正しくは、我が身は可愛いがあまりにも理不尽な場合は拒否をするが正解。やめろその手を離せ、その白い腕のどこにそんな剛力があるんだ。腕を掴まれても振り払うことすらできない情けない自分を棚に上げて、心の中でひたすらに罵倒を繰り返した。
「ん〜たしかに僕から頼んでいるんだ。やっぱり人間の結婚式をあげないとそう思われても仕方がないか」
「いやそう言う話ではない」
俺の周りには天然が多い。しかも目の前にある天然は魔王だ、心読めるタイプの魔王だ。そもそもの話何故こいつは腐っても一応勇者な俺を嫁にしようと言っているのだろう、俺何も知らねえな。
「……僕の一目惚れだよ。まあいいんだ、そんなことよりまずは婚姻の儀を取り行おう。結婚式はその後だ」
「その、儀って具体的にどんな感じの」
「勿論、交尾だよ!」
「うんそんな気はしてた」
何でこのイケメンはそんな屈託のない笑顔で交尾と言っても様になるんだろう。しかし俺にはもう考える時間がなかった。魔王の手が、白くて冷たいその綺麗な手が、俺の腹に這ってくる。
「今頃他の勇者達は、魔物達と遊んでいるだろう。勇者の力を侮ってはいけない、直属とはいえあのような下っ端達では1時間と持たない。……でも目の前のお嫁さんを堕とすには十分な時間だ」
「んッ……や、めろぉぉ……」
「そんなこと言わないの、気持ちよさそうにしちゃって。素直になっていいんだよ」
赤子の手を捻るより容易いと言わんばかりに涼しい顔をして、俺の両腕は押さえつけている。恥ずかしい、自分は全裸だったのを今思い出した。いつも全裸みたいなものだが、やはりこうしてみるといつものは一応服なんだなって思う。
「おい魔王……ふぁ、、っいっきぃな、りぃい、入れぇるにゃ」
「魔王じゃなくてベルって呼んでみて。いいでしょ、アズサ……」
そんな風に顔近づけられて、指入れながら、かっこいい声で言われたら、何も考えられなくなる。特に俺のようなビッチはもう目の前の男に抱かれることしか考えならない。ごめん仁、俺はまた襲われる、しかも魔王に。そして多分だけど俺はこれから抱かれる、お前以外の人間に抱かれてしまう。
悔しさか、罪悪感か、頬につたうそれの理由はわからない。しかし、たしかに今俺は仁のことを考えていた。魔王を倒して元の世界に帰ったら、仁と一緒に暮らして、結婚式みたいなこといつかはして。その、セックスもして……そんな存在していない幸せな生活、記憶が、俺の頭を支配する。
「……酷いよ、交尾する時に違う男の子の事考えるなんて」
背筋が凍る感触を覚えた。今まではあんなに優しくて、本当に魔王なのかとも心のどこかでは思っていたけど、ああたしかにこいつは魔王だと認識を新たにした。せっかくの黒くて綺麗な眼は、怖い顔のせいで台無しだ。まあそれでも顔がいいのがコイツだけど。
「ひ、ご、ごめん……んあァア!」
「許さない、君の頭の中にいる彼は……真田仁、そうか初恋なんだね。大丈夫だよ、僕が全部塗り替えてあげる」
やめて。今までは頭の中での拒否反応だ。だが塗り替える、そう言われた時は初めて心の臓の場所、心の底からやめてくれと叫びそうだった。仁が、仁がいい!魔王は嫌だ、グルーデンの人たちやベルトルトさん達に迷惑をかけている奴のお嫁さんは嫌だ、そんな奴に抱かれるのは嫌だ。
仁に助けて欲しい、そのあと気持ちいい所いっぱい触ってイかせて欲しい。仁も俺の中にちんこ入れてその、その、セックスしたい。あのおっきい絶倫のちんこ入れられてイきたい、俺の中に熱いのいっぱい入れて欲しい。頭ん中魔王に読まれてることなんざ承知の上だ、むしろ知っていてこんなこと考えてる。どうだ魔王め、俺ははなからお前の求婚は願い下げなんだよ!
「……そうかい」
「ああそうだよ、俺は仁が好きなんだよ、40人で協力してお前をぶん殴るんだよ!」
言えた、言ってやったぜ。ざまあみろってんだ魔王がよぉ。これで魔王は俺を攻撃するかもしれない、俺は生きて帰れないかもしれない。だが今となってはそこはもう大した問題ではない。魔王に堕とされるぐらいなら今ここで、仁への想いを捨てずに抱いたまま、くたばりたい。つまりはこうだ、俺の自慢できない十八番その5、「もうどうにでもなれ!」
しかし、魔王は俺の一歩先をいった。流石は魔王か、いやこうなってはもう魔王うんぬんは関係ないな。
「わかった。どうやら君を堕とすのは一筋縄ではいかないらしいね、僕も心を鬼にするよ」
……壮絶な戦いが始まった。
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