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第110話 蜂蜜樽
もう意識がなくなりかけていた。時間感覚もない、まるで一瞬のような数時間のような、なにしろたかが数十分の出来事とは信じられないぐらいの密度だったもんで、意識が昏倒しそうだと言っても俺としては過言ではなかった。
多分混乱もしている。右左がわからんのはもちろんのこと、上下前後に何があるのかサッパリわからんぐらいには混乱を極めている。……なんというか、混乱してるというよりは平衡感覚失ってるみたいだな。
「なあさ真田、これはいつぐらいまでやらなくちゃいけないんだ」
「どしたんだよ急に」
「いやその、もう顔がアヘってて声かけても応じてくれないからさ……」
「あっあゥ、、イグゥぅ……」
やべえやり過ぎたこと軽く声を出した仁に殺意を抱いた。どうせこんな事になっとる梓も可愛いなとかそんなことを考えているのか見え見えだ。死にそうな顔でアヘってる恋人を前にそんな嬉しそうな顔するとか控えめに言って悪魔だと思う。これで明日とかになったら許してしまうもんだから、惚れた弱みというのは末恐ろしいものだと思う。
「もうそろそろ食べ頃だな。場所変われ、最初オレがやる約束だから」
「え? 梓死にそうな顔してるけどいいのか、嫌われない?」
「大丈夫だ、梓はそれぐらいで怒るほど心が狭くねえからな。誰が見てもそれに限界をとうに超えたあたりからが一番可愛いと思う」
さっき惚れた弱みのせいで許してしまうと言ったな、アレは嘘だ。俺はお前を許さない、絶対にだ。出来ることなら墓まで持っていきたいと決心するそんな歪んだ愛情を前に、俺はなす術がない。頭の回路がパカパカ(電気が点滅する音)して、何をすればいいのかわからない。確かにその様は、確かに雄の次なる行動を待つだけの頼りない雌に見られてもしょうがないのかもしれない。
仁と明が交代して、背後で俺を固く抱いてるのが明に、そして前で獣のような顔で俺を見ているのが仁だ。後ろに助けを乞うても、色っぽい顔をして俺を見ている明はなんとかしてくれそうもない。寧ろ隙さえあれば更に何かしでかしそうな、絶対死ねる完璧なキルゾーンが完成した。
「なあ、そんなに明の指がよかったか? ひーひー言いやがって。恋人差し置いてこれは問題だな、いつか調子に乗って寝取ろうとか思う奴が現れるかもしれねえし」
「なぜ俺に視線を移した。……梓の言う通り確かにヤキモチ妬きだな、いや嫉妬深いの方が正しいかもしれねえけど」
「別にいいだろ、オレの恋人は可愛いから虫がいっぱい集るんだよ。守ってやれるのはオレだけだ」
「……梓は苦労してんだな」
「うゔん……くたばれぇ〜」
ここまで殺意オンリーのくたばれを前に同時もしない仁。寧ろ梓が死ぬまでオレは死なねーよとかどこで覚えたのかも知らない口説き文句がここでも光ってる。一体前世でどれぐらいの鍛錬を積んだらこの域に達することができるんだ。面白いのか、明が一番引いていると言うことだ。
「じゃあ入れるな……辺なとこあったら直ぐ言えよ、気持ちよくなれるように開発すっから」
それ言って本当に俺が言うと思っているのだろうか。そうならこれ以上の恐怖はないだろう。目の前に初心者そして童貞の明がいるから、変な影響を受けないことをただ祈るばかりだった。軽々と身体を持ち上げられて、大きなチンコが俺の入り口に入り込む。ゆっくりと味見をするかのような挿入に腹の奥から腹が出る。
気持ちいいのはわかってる、お前だってフル勃起してんじゃあねえかだからそんなに焦らさなくてもいいんだ。仁に思わず溢れてる笑みは、勝手に動く腰を嘲笑うものなのか、面白いと思うものなのかは不明だが、それすらもかっこいいと思ってしまう俺は仁より末期なのだろうな。
「……欲しがりだな、淫乱で可愛い」
「ん、い? 誰だ淫乱だってぇェ! ま、まてって、急に入れてんじゃあねえ!」
「おおすごい、ビクッとなった」
「だろ? おら指咥えて見てろや、ちゃんとした恋人の俺が手前を見せてやるよ」
「……ん? それは手本と言いたいのか?」
少しずつスピードを上げて早くなっていく。感覚がすっかり過敏になっていく俺の身体では、この快楽に抗う術はない。これ程までに自分の恋人が憎く愛おしくごっちゃになって見えてしまうなんて、後にも先にもこれだけにして欲しい。俺が子供の時に思い描いていた恋人像とは性格も雰囲気も、性別も違う恋人。今暫く、その愛おしい人との戯れをしたいと心より願った。
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