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第112話 心が追いついた

「す、すげえ……」 明の反応はただそれだけだった。仁が勝ち誇ったような顔をして俺の勢いのない射精、まあ言ってしまうとトコロテンを見ている。それだけじゃなくて懐から取り出した恐らく手製の手ぬぐいで、汗やら精液やらでベチャベチャになった俺の身体を拭き取ってくれている。冷静超えてめっちゃいい彼氏してる。これは洒落にならないぐらいのスーパーダーリンなのではと自分の彼氏を手放しに褒めていた。 「梓、超エロいな……すげえ」 明はすげえを連呼している。まるで作文でやたらとすごいと思ったを使いたがる語彙力低めの小学生のようだ、まあ俺がそれだったんだけど。成長につれて、みな大なり小なり語彙力の鍛えはあるものだしそれでボキャブラリーが豊富になっていくのだろう。明は人生掛けて培ったそれが失われたように、俺の痴態を見ながら譫言を言っているばかりだった。 仁がオレもイきそうだと言われた時は、この状況でそれを言うのかと嫌な汗が出た。しかしそれとは対照的に、俺の腰はユラユラと揺れて仁の熱い種を求めている。自分の浅ましさが嫌で目を瞑るしか否定する選択肢がなくなってしまった、しかしそれでも勿論そのエロいだけの仕草が治るわけはなく、ただ仁の情欲の火に油を注ぎ続けるだけだった。 「はいはい、入れて欲しいんだな。俺も余裕ないから遠慮はしねえぜ。じゃ、とばねえように気張っとけよ!」 「ひぃっ__! あっあつい……こら、動くなぁ!」 目の前にいるのは幸せそうな顔をした仁、そして後ろにいるのが俺のだらしない姿を目に焼き付けようと瞬きをしていない明だ。こう言うのをなんて言うんだっけな。たしか、前門の虎後門の……象だっけか。忘れちまったけど多分そんな感じのやつだったはず、簡単に言えば俺は今四面楚歌なんだ。しかも周りにいる奴は俺が嫌いどころか大好きなんだから頭を抱えてしまう。 熱い、熱い。白いそれは、胎のどこかにかるはずだとない「卵」を探しているように俺の身体を侵食していった。いずれ何かを生み出すこともなく死んでゆき、いつしか俺の腸内洗浄とか言うわけわからん異世界特典によって存在ごと消されてしまう。正直な話少し可哀想だと思った。そっと外から自分の胎を優しく撫でると、やはりこれは母体だと喜ぶように動きが激しくなった……ような気がする。 「うわ、、なにその動きえっろ」 「おい変われや次は俺の番だろうが」 結局俺に見惚れるばかりで乳首責めを忘れていた明は正気に戻ったようで、仁に交代を促している。しかし仁はさっきの俺の行動のせいでまた勃ち始めているそれを抜くのが惜しいと喧嘩を始めてしまった。 「約束がちげーぞ」 「お前さっきの見ただろ、こんなん見たら誰だって勃起するわ。オレは勃起したぞ」 「俺だってそうだ。もっと言うと一回も出してないからお前よりも我慢してるんだ。俺とお前どっちが我慢してると思ってる」 頭がぼーっとするなかで、この討論とも呼べない別の何かを止めたりツッコんだりする時間は残っていなかった。成り行きを見守っているだけだったが、最後はなんだかんだ約束を守る仁がいい負けたようだ。渋々を超えて、悶々とした顔でチンコを抜くのがやたらと印象に残る。なんか、誰かも仁と同じような顔してたはずなんだけど、誰だっけ…… ……いやいや、そんなことをかんが当たる暇はない。おれの頭を覆っているのは、チンコが抜けたことによる消失感だ。さっきまであったはずのそれが無くなるのは、虚無感を超えて恐怖にすら感じられるような気さえした。寂しい、俺の方にぶっといのを突き刺して欲しい。そんで気持ちいいとこいっぱいついてもらって、中にもっと欲しい、熱いのが足りない♡ 「次は俺だ、早速入れても大丈夫か?」 今更そんなこと聞くのかよ、その紳士な態度は今はいらない。童貞なんだから欲望に任せて俺に襲いかかってくれればよかったんだ。俺から動いてやると、へっぴり腰な明の身体に覆い被さった。背後からの圧倒的とも言える仁の存在感をひしひし感じながら。でもそれは、紳士のメッキを被った童貞を本気にさせるには容易かったようだ。 「……ごめん、やっぱ手加減できない。壊したらごめん」 「そんななんべんも謝らんとって、早うお前のチンコ寄越せ、俺のケツがまけまけいっぱいになるまで搾り取ったるけん」 絶え絶えの息で、久々とも言えるほどの隠さない方言が出てきてしまった。恥ずかしい。ばあちゃんのせいで身に付いたこれは、最近の若い人だと珍しいぐらいの訛りだそうだ。気を抜くとすぐ出る癖はなんとかしたほうがいいなんてことはちゃんと自覚している。そのつもりだが、これを聞かれてはの反論のしようがない。 「……方言かわいい、全然抜ける」 「強姦魔にしてはいいこと言うじゃねえか」 「お前もな」 しかし、火をつけるには思った以上に効果的だったらしい。

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