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第118話 統率性

40人の勇者の中で最弱は俺だ。はっきり言ってスライムすら倒せるか怪しいと思う。だからこそこうやってトレーニングを積んでいるわけだ、さらに効率的に強くなるには……やっぱ魔物と戦ってレベル上げか? それしか思い浮かばん。 「な、なあ梓、隣座っていいか?」 「ちょっと休憩したいんだ」 最終手段を興じようか悩んでいる時、汗だくな暁彦とふじやんが隣に座ってきた。今は明が健吾に相撲の勝ち方を教えているようで、事実上の休憩に入ったらしい。しかし俺には休んでいる時間なんてこれっぽっちもない。こうしてはいられない、すぐにでもトレーニングを再開しようと立ち上がると、2人が両腕を掴んで阻止してきた。 「まてまて、いくら何でも頑張りすぎだ!」 「第一に今日ちょっと変だぞ」 ……すまない。少し取り乱していたみたいだ。トレーニング仲間がいればらモチベーション保ちやすい上に、自分に足りないものを見つけやすいと思ったのだが、かえって暴走を引き起こしていたようだ。本音はというと俺に足りないのは全部だった上に、仲間というより好敵手のように感じてしまっていた。だからこそ負けたくないと思い上がってしまった自分は精神面でも足りないようだ。 「その……魔法使いみたいな遠距離もいればさ、商人みたいな情報係もいるんだ。無理して欠点を埋めなくても、役割分担すればいいんじゃないのか?」 「踊り子でどうやって魔王退治に貢献しろと?」 「梓は応援してくれるだけでいいぞ」 「それでなんになるんだ」 「やる気上がって強くなれる気がする」 「俺も」 梓があるから魔王退治を頑張れる。明と仁にも同じようなこと言われたな、あん時は所謂比喩表現だと思ってたけど……まさか直喩なのか? 確かにゲームだと踊り子は味方にバフ盛ったり敵にデバフを掛けたりするのが仕事だけど……俺はそれすらもしていないというかできていない。最初に回復の舞踊った時も下半身が回復したから本当に意味わからんってこれは俺悪くないな。 何はともあれ、これからは迷惑かけないようにトレーニングを少し減らそう。ラジオ体操ハード版も暫くは2回にしておくとするか。そうなると、みんなが心配にならないような強くなる方法を探さなくてはいけない。元々踊り子なんだし味方を強くする方法、舞を練習してみたい。少なくとも下半身に効くのをなんとかしたい。舞のことを考えると、俺は今更過ぎる素朴な疑問がふっと降りてきた。 「そういえば俺、どれぐらいの舞を踊れるんだろう」 「へ? それって、踊り子の舞の話か?」 「ゲームだと攻撃力上げたり、防御とかスピードとか色々あるよな」 「ものによっては回復とかもあるな」 やばいなんで今まで考えつかへんかったんやろ、というよりさっきまでの俺脳筋すぎる。……失礼また方言がでた。とにかく一回浮かぶとなかなかに手強い、まるで鍋底のこべりついたカレーのようにいつまでも俺の脳を支配している。というわけで、いっちょ踊ってみるか。まずはどれぐらいのレパートリーがあるのかを知ることが大事だろう。 「とりあえず全部踊ってみるから、どんな感じか見てくれ」 「待て待て待て」 「そんなエロいや違う不用心なことすんな」 またもや全力の静止を食らってしまった。俺なんも出来ねえじゃん、世の中の不条理に俺は天を仰いだ。こうなったら実践でやるしかないのだけど、なんかいい感じにクラーケンとか出てきてくれないかな。そしたら合法的に実践ができるのに。 「そんなことしたら触手が梓にってそうじゃない!」 「高林もちょっと休むべきだな」 さっきから暁彦が煩悩まみれだとようやく気がついたふじやんが、冷静になるように促している。男の煩悩なんて言って仕舞えばもう慣れたものだけど、暁彦はそれを隠しきれていない。そんなに胸の内から出てくるぐらい興奮してんのかよ。 俺から一旦暁彦を離したふじやんが、必死に説得している。ちょっと俺も悪いことしたからなと罪悪感がじわじわとやってきて、それと同時に1人て部屋で練習するのが1番いいなと考え直した。 「そうだ、どうせならこの筋トレチームに名前つけようぜ、統率取るためにもな!」 暁彦の重大性を思い知ったのか、ふじやんが急に統率性? を誇示するためにチーム名なるもの決めようと迫ってきた。確かにそうする事によってチームの自覚も出てモチベーションが上がるのは勿論、なんかかっこいい集団みたいに感じるもんな。暁彦に花を持たせる並びに冷静さを取り戻してもらうためにとチーム名を決める権利は暁彦に一任した。 「お、俺!?」 最初は重大任務に頭を抱えていたが、次第にノリノリになっていき、健吾と明が帰ってくる頃には面白いチーム名が完成した。

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