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第120話 暁彦という人間
「エロいっていうな! 冷えたツッコミと理解力はトップクラス、梓ブルー!」
「大丈夫だぞ様になってる。兎に角梓のフォローに徹したい、明イエロー!」
「こんなことするの初めてだよ! 一生懸命頑張ります、ピンク健吾!」
「みんなが楽しそうでなりよりだぜ、特にいうことがない勝グリーンだ!」
「一回でいいからしてみたかった! ってかお前ら名乗りが雑すぎだろ、暁彦レッド!」
「「「我ら筋トレ戦隊!
マッスルファイブ!!!」」」
……なんだこれはと言われても言い返すことができない惨劇を見せてしまって申し訳ないと思っている。俺たちのチーム名を暁彦に丸投げしてしまった結果がこれだ。戦隊モノ好きなのは悪いことじゃないし、本人である暁彦も楽しそうだ。だが名乗りは基本全員自由な感じになってるから、そこはガチ勢の暁彦の琴線に触れないように努力するしかない。そして結果はというと、
「お前らふざけてんのか?」
まさかの大不評。やっぱり仮面ライダー派の俺では暁彦を満足させるには至らなかったようだ、トップバッターとして申し訳ない。
「特に健吾、名乗り待ち構えてただろ。ピンク健吾じゃなくて健吾ピンクだ!」
「ご、ごめんなさい。どっちも同じに感じたから……」
「何から何までちげーよ!」
いや細かいな、パンピーにこだわりを押し付けるガチ勢ほど引かれるものはないぞ。まあ気持ちは分からんでもない、俺もオタクだからついついしてしまいがちになる事は決して少なくない。褒められたものじゃないけどな。そうとは言え、後先考えずに暁彦に決定権を押し付けてしまった俺たちにもある種の責任があるから、戦隊モノをよく知る人間知らない人間を含めて、このチーム名に文句を言うものはいなかった。
「お前ら戦隊モノちゃんとみてるか、日曜の朝にやってんだろ? 見てるだろ?」
「俺仮面ライダー派だから戦隊モノは前菜見ないな感じで……あんま見てなくてな」
「朝は苦手だ。日曜はそんなん見てないで大人しく昼過ぎまで寝るもんだ」
「うーん……日曜は朝練が早くてな。小学校の時は見てたけど今はもうめっきりだ」
「僕も朝は苦手で……プリキュアの時間になると見たいから自然に起きるんだけどな」
「お前ら全然なってないな!!!」
仮面ライダー派の俺、朝が苦手な明、年取って見なくなったふじやんに、まさかのプリキュア派な健吾。十人十色と言えばそこまでだが、暁彦は本当に戦隊モノが大好きなんだろうな、こんなことがあっていいのかと言った具合に落ち込んでいる。どうせならもうちっと練習しとくか?
「え、いいのか!?」
さっきの落ち込みは演技だったんかと言いたい具合に、目の色変えて俺に迫ってきた。元気が出てよかったと言うべきなのか、お前騙しやがったなと怒るのが正しいのかは分からんが、とにかく頷いておいた。外野はと言うとめんどくさそうにしている明と、相反するようにワクワクしている健吾、その様を見て優しく笑っているふじやんと性格が見事に滲み出ていた。
陽キャに見せかけたヘタレと見せかけて、好きな事に一直線なオタク属性とか言う隙のない二段構えな性格をしている暁彦は、そんなのに目も暮れず元気潑剌としていた。俺はこの世界に来て流されやすい性分だとわかったもんで、早くも無駄な抵抗をやめている。こうしてみると案外バランスいい5人組だな俺たち。
「じゃあ気を取り直して練習だ、名乗りのな!」
「えい、えい、おー!!」
「筋トレは……また今度にするか」
「梓ってなんだかんだお人好しというか、他人に甘いよな」
「そんなだから性被害に遭うんだ」
ぐうの字も出ないな。まあどんな不純な動機であっても5人の仲が良くなるのはいいことだと思う。ほら、俺たち結構ギクシャクしてたりするから……な?
すると、いきなり暁彦がこちらに向き直ってきた。大好きなものを語って興奮気味に頬が赤くなった可愛らしい姿だったけど、目が真剣そのもので、思わず身構えてしまった。ついでに周りの奴らも身構えていた。
「なあ梓、見ててくれよ。おれいつか戦隊のレッドみたいに強くなって……」
「う、うん……」
「面と向かって真田に謝れる男になってやるから!」
「じ、仁に?」
まさかの仁だった。周りも意外というか、拍子抜けしたような顔になっている。うん、これはきっとあれだ。暁彦のやつ、まだ自分の口から仁に謝れてない事気にしてるんだろうな。本人はもう記憶にすら残っていなさそうな問題だが、暁彦としてはそういう問題ではないのだろうな。
これはきっと、高林暁彦という人間の美学、道徳の話。違う言葉を使えば良心やプライドに基づく価値観だ。……うん、その気持ちすごいわかる。
頭を下げているそいつの目の前に、手を差し伸べた。救いの手ではなく、友達としての友愛の握手のための手だ。それに気がついた暁彦は、焦ったように自分の目を入念にタオルで拭いて、俺の手を強く握ってくれた。
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