122 / 206

第122話 大事な話

暁彦のOKを貰えるまで粘りに粘り続けて、気づけば早夕方だった。夕食の時間だし俺の場合このあとすぐに夜回りがあるんだ。諦めずに努力を重ねたおかげか、現時点で最高評価である「まあ及第点」をいただく事に成功。第一回目なのに脱線しまくりの筋トレは、これにて幕を閉じた。 ……最後まで諦めずに薫を待ち続けた。途中暁彦になによそ見したんだと言われても、待ち続けた。しかしその最後の時まで、薫が現れることはなかった。リビングに行けば何食わぬ顔で食事を待つ姿があったものの、話しかける勇気はなかった。 「「「いただきます!!!」」」 別に今更謝って欲しいわけじゃない、そこまで引きずってないし、いってはなんだが俺の中で武勇伝というか、開き直ってき始めている。ただ更に遠い存在となってしまった薫の姿が、ひどく恋しく感じてしまっただけなんだ。 ♢ それからというもの、本気で平和な日常が続いた。こんなに平和でいいのかと心配になる程理想的な毎日を過ごさせてもらった。夜回りとか絶対なんか起きるだろとか期待してもらったいたところ悪いが、本当のほんとに何も起きなかった。むしろ今までが壮烈過ぎだ。いや異世界転移なんだから波乱なんて常時万丈であり続けるべきだが、俺は多分一生分の波乱を味わい尽くしたから天が束の間の休息を与えてくれているのだろう。 ハプニングが起こらないと時間が経つのがやけに速く感じるもので、気がつけばコグエにつく前日となっていた。温暖だった海上は嘘のように寒くなってきて、あたりを見渡せば流氷が彼方此方に見えて来る。前知識で寒いってことは知っていたし覚悟もしていたけど、大陸が見えていないこの状況下でこんな調子とは、こんなメイド服とかいうふざけた低装備だと凍えてしまうのでは……? 「寒くならないように服にあったかくなる魔法かけますので問題ありません」 「赤魔術いいなー!」 想像を遥かに超える便利さに思わず唸った。俺も赤魔術教わろっかな、いやそもそも教わるぐらいで身につくのか? でも身に付けたらめっちゃ便利だろうな。元の世界戻っても全然腐らなさそうないいものだと思う。少なくとも現実世界だと俺の能力なんて男娼かゲイ男優か、最悪男性ストリップでしか使えないだろ。てこでもやらないけどな。 そういえば元の世界に戻ったら能力やら魔法とかって使えたりするんかな? 使えるのが理想だけど、やっぱり元の世界のルールみたいなので制限を受けたりするのかもしれない。 「梓、成、喜助が呼んでるぜ」 仁が喜助呼びしてるからギョッとしたけど、よく考えてみれば全員からそう呼ばれていた。すっかり全員に喜助と呼ばれるほどに元の冷静キャラが崩れてしまってるのだと、外気温に合った冬らしい寂しい気分になった。どうやらその噂の喜助は思い出したかのようにいきなり全員をリビングに徴収しているらしい。何か用があるのだろうか、全員集まるということはやっぱり大事なことを伝えたいのだろう。 出来ることならいい知らせか普通の知らせでありますようにと心配しつつも、意を決してリビングに進んだ。 ♢ 「コグエには二つの季節がある、さてそれはなんじゃろな?」 「うーん……秋と冬!」 「春がないとなんか違うよな、春と冬」 「正解は寒い冬とめちゃくちゃ寒い冬じゃ」 みんなが集まったリビングにいたのは、まさかまさかのベルトルトさん! ……が写っている大きな水晶玉だった。これはアレだろうな多分。ほら、異世界用の電話みたいな、水晶玉を介して遠くとビデオ通話できる魔法道具だろう。そんなものいつ喜助は受け取っていたのだろうか。少しぐらい教えてくれてもよかったいやよく考えたら、そんなの見せられようもんならテンション上がって割りそうなのが何人かいるし無理だろう。 「ベルトルトさん、全員集まりました」 「そんな行けばすぐわかるようなうんちく言ってないで本題をよろしくお願いします」 真面目な喜助と毒舌が治らない高松が、豆知識を披露し続けるベルトルトさんを止めていた。やっぱりこの面倒見のいい雰囲気は画面ごしいや水晶玉越しでもわかるな。 「久しぶりじゃな、40人の勇者たち。全員無事にコグエに辿り着けそうで何よりじゃ。今回の用は他でもない、そろそろお前たちに伝えなくてはと思ってな」 思ったよりさっくりと本題に入った上に、何やらとんでもないことを教えられそうで、全員が身構えた。皆が次なる言葉を待っていたのだけれど、肝心のベルトルトさんが唸るばかりで焦らされる思いをした。そして待ちに待った言葉が、 「……言いたいことが多すぎる。そもそも集まってもらってまで長話を聴かせるのも良いとは思えんな。よし、質問形式にする、2つ質問に答えてやろう!」 これである。ギャグ漫画なら全員でずっこけていたところだが、変な所で真面目な俺達は大人しく話し合って、2つの聞きたいことを準備した。

ともだちにシェアしよう!