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第125話 フラグの建て方は一級品

俺たちが静かになるまで、ベルトルトさんは笑顔で見守っていた。こう言うのをなんだっけか、ばぶ味だっけ。もう死語かもしれないけど。兎に角もう年ごろのご老体であるはずなのにお母さん力を感じてしまう、これが三十路の独身息子が2人もいるお爺さんの包容力か。 結局は高松が我慢できなくなって、俺たちは現在正座で怒られている。喜助もはしゃいだから一緒になって正座をしている、おい学級委員長ってほとんど俺たちのせいだった。 「うるさくしてしまいごめんなさい、はい」 「「「うるさくしてしまい、ごめんなさい」」」 こんな感じでまるで幼稚園生のようなお叱りを受けているわけだ。でもこれはまだまだ優しい方で、さっきまでは体罰上等のクソ教師の如く、俺たちを容赦なく一人一人殴っていた。平手打ちもいくつかある中、俺に対してだけは頭をぽかん(限りなく容赦して叩く)と叩いただけなのは不平等だと文句が出ていた。ちなみにそれらは高松の渾身のバックブリーカー(プロレス技、頭を相手の背中や腰に当て、相手の体を両手で押さえつけて反り上げる技、背骨折りともいう)で見事に黙らされた。 結局それはベルトルトさんの鶴の一声でなんとか収束して、こう言った平和な終息を迎えたわけだ。それにしても俺としては高松のそのプロレス能力の方が気になった。そんな技使うとはなかなかの経験者だ。普通こんな荒技手軽にやろうとか思わん、しかも自分より一回り大きい男相手にもしてやがる。お前も筋トレしないかと誘ってしまいそうだった。 「まあ異世界に来て能力を得たら、誰だって興奮の一つや二つはあろうよ。それはいいとして、お前さん達にこれからの予定を教えたいと思う」 水晶玉から突如、ホログラムのように大きな地図が映し出された。中世の海賊が使ってそうな地図でわくわくした。肝心の読み方はよくわからん、まず持って自分たちがどの位置にいるのかもわからん。 「お主達があるのはここじゃな。このゴグエ大陸の近くを進んでいる、これよりこの船は進路を変えて、協力国である和の国「ヒノマル」へと向かう。ここから物資や協力品を受け取って、学園都市コグダム都へと陸路で行く」 ヒ、ヒノマル……思ってたよりも和の国してるな。やっぱり異世界とは言え兄弟世界、同じような文化が芽生えやすいのかも。話によればゴグエの中でも温暖な地域にあるヒノマルは、この世界で2つ目に大きな火山に守られた独自の民族。ヒノマルはグルーデンの1番の同盟国であるからまず手を貸してくれるのは間違いない。もう話はどうしているらしいから、このまま進めば俺達の船を探してくれているヒノマルの漁船が迎えに来てくれるとのことだ。 しかし何も問題がないわけではないらしい、どうやらこの季節のコグエ周辺では、クラーケンという大型の軟体魔物が大量発生しているらしく、遠回りの必要性があるとの事だ。本当にクラーケンって実在するんだ……冗談のつもりで言葉にしたことはあったけど、本当にいるなんて思ったなかった。 「クラーケン?」 「お主らにわかりやすく言えば、大きなイカじゃ。毎年漁船や客船が数多く破壊されておる、海のギャングとも言われておる」 なるほどようは現実世界のウツボの悪化バージョンが。最悪だな。なんな大きな触手に攻撃されたら、いくらこの船でもひとたまりもないだろうな。迂回は絶対と言ったところだろう。 「こ、怖いな」 「でもでも、その、迂回すれば出会わずに済むんだろ? そんなおっかねえのチートあっても戦いたくねえよ……」 全員すっかりクラーケンに恐れをなして、迂回を受け入れていた。俺も賛成だ。そんな魅了が効かなそうな軟体生物相手だと、俺はマジで出る幕がない。……確認だけど魅了聞かないよな? 知能のない軟体生物がというか軟体魔物が魅了にかかるわけないよな。嫌だよ、もしかかって俺にゾッコンなクラーケンが誕生とか耐えられない。そんなんどこに需要あるんだ。 兎に角早くヒノマルの漁船と合流しよう、慎重かつ大胆に急ごう。 「大丈夫か〜あずさぁ、顔色悪いぜ」 「平気だ、多分。クラーケンに……触手責めされんの? 俺が?」 「ちょっと何言ってるのか分からない」 どう考えても正常ではない俺を相手してくれてる薫。俺の狂人ぶりには流石の薫も驚いているのか、半笑いで受け答えしている。 そんな様子の俺に、《《3時間後》》の俺はこう言ってやる。「口は災いの元だぜ」と。

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