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第139話 中トロマジック

ヒノマル城の食事処 想像以上に広い多分正座して食べる感じの食事処へ着いた。クラス全員呼んでくれるという事で、俺は海鮮酢飯を楽しみに隣にいる皇子様を尻目にウキウキしてばかりだった。空腹も勿論理由ではあるけど、久しぶりの寿司という事も理由の一つだろう。実際に俺の食い意地は通常時の倍以上はある。 チラチラと少しずつだがみんなが集まってきた。海鮮酢飯とは現実世界での寿司のことを言う、ドヤ顔で全員に教えるのがもう一つの楽しみなのだが、全員がへぇーそうなんだと言った感じで最初こそは感心をしめすが、後はもうなんでもいいやと話を水に流していくのは誠に遺憾だ。果てには喜助によって、寿司の語源は「すっぱい」だよと言われて俺がへぇーそうなんだとなってしまった。でもいいや、海鮮酢飯めっちゃ楽しみ。 「嬉しそうでよかったです、勇者様方が集まり次第すぐにでもお持ち致しますので、今しばらくお待ちくださいませ」 隣に座る皇子様はまるで自分のことのように喜んでいた。そんなにインスピレーションで教えた厚焼き玉子が嬉しなったのだろうな、そういうと歯切れが悪そうに返事をされた。あれひょっとして何か気に触ることを言ってしまった? やっぱり素人仕込みの卵焼きじゃ満足できなかった? 「いえいえ、そんな事はありません! 本当に梓殿は、……とても可愛らしい方だなとおもいまして」 そんな変なこと言ったかな? まあいいや、こうしてるうちにも着実に集まり始めた。気がつけばほとんどの席が埋まっている、これはもうすぐに海鮮酢飯が食えると言うことだ。 「ごめん遅れた!」 「城の中探検してたら迷っちゃって……」 ようやくやってきた大輔と奏は、皇子様がデカイだけの蔵だといっていたあの大きなお城を探検していたみたいで、ここに来るなり机にあるお茶をぐびっと飲んだ。別に責めはしない、空腹なぐらいで腹を立てるほど子供じゃないと思ってるし、第1に俺もちょびっとだけ興味あるもん。 全員集まったと言うことで、首をキリンのように長く伸ばして待ち侘びていた海鮮酢飯がいよいよやってきた。まあ流石にネタも同じで握り方も多分一緒だから、ぱっと見は現実世界にある寿司と大差なかった。俺が何よりも目をつけたのは、大葉で酢飯とネタが巻かれていることだ。知らんだけでそう言うことする地域も日本であるのかもしれないが、少なくとも俺は初見だ、ユニークでそれだけでワクワク出来た。 「我が国の海域から取れた一級品の天然魚、丹精込めた自慢の酢、勤勉な民達が日々作り上げてきた最高級の米と大葉、腕利きの職人たちによって一つになったまさに最高級の海鮮酢飯でございます」 なんかもう聞くだけで美味しそう。よくわからない材料をよくわからない手法で調理したよくわからない三つ星グルメより、こう言う作る側の努力が伝わるシンプルな方が心を揺さぶってくる。ネタの魚達はキラキラして、それだけで食欲をそそる。なによりこの見た目で不味いわけがない。 嬉しい事にインスピレーションで教えた厚焼き玉子の海鮮酢飯も早速作られていた。流石は職人、「玉子を甘く味付けしてだし巻きの要領で、でも一回一回めちゃめちゃ分厚く焼きていく、手法は知らん気合いだ」というフワフワした説明でここまで作れるなんて、控えめに言って完全再現。勿論他のネタと同じく大葉で巻かれていたが、それはそれ、ヒノマルの文化を入れた素晴らしいアレンジだと思う。 「「「いただきます!!!!!」」」 いつもよりも気合の入ったいただきます。当然だろう、10日間もの間船上で限られた食材での料理を余儀なくされて、更には違うこの世界でいうところの海鮮酢飯を久しぶりに食べれるわけだ、楽しみにしていたのは俺だけではないはず。出された漆器で出来た寿司桶の中には、マグロ、サーモン、いくら、赤貝、うに、ハマチ、ブリ、穴子、最後に玉子となかなか豪勢。ふと隣を見れば茶碗蒸しまである徹底ぶり、やはりヒノマルにもおもてなし文化はあるみたいだ。 先ずはやっぱりマグロから、おいおい最後じゃねえのかよと言われるかもだが、それに関しては価値観の問題だ。俺は先ず海鮮酢飯の看板と言って然るべきマグロを食べたいのだ。これは……現実世界でいうところの中トロだな。あんまり、少なくとも一番好きなネタな集め玉子の焼き方も知らないぐらいには詳しくないけど、それぐらいはわかる。脂が乗ってて美味しそうだ、どれ食べてみようか。 「梓殿? マグロを食べた瞬間固まってしまわれて……」 「あー多分大丈夫っす。感動してるだけだと思うんで」 仁の言う通りだ、めちゃくちゃ美味しい。美味しいのキャパを超えて黙ってしまうぐらいには。ほんとに上手い中トロって、脂でさえも美味しいのは何故なのだろう、これが中トロマジックってやつだ。個人的に大トロの方が好きだったりするけど、そんな事はこの完璧な中トロの前で言うのは野暮という物だ。 1つ食べたらなくなってしまうという至極当然のことでさえ寂しく思えてしまう、そんな奇跡の海鮮酢飯を食べる事に集中した。

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