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第141話 俺の憧れ

城から少し離れた城下町で、俺は心の底から穴があれば隠れたいと考えていた。 街では勇者様だと子供はもちろん大人やお年寄りにまで尊敬の目を向けられる。別にいやなことではない。ちょっと恥ずかしいような気もするけど、このプレッシャーに耐えてこその魔王を倒す勇者だと勝手に自己完結させた。では何故俺が隠れたいほどに恥を感じているのかというと、同伴者が2人とも曲者だからだ。 「おい二家本、梓の肩に手ェ回してんじゃねえ」 「俺はお前みたいな筋肉ゴリラな馬鹿じゃないからな、寧ろちゃんと守れるのは俺しかいないだろ。そうだ、どうせなら真田も俺の隣に来いよ。2人まとめて肩に抱いてやる」 「舐めとんのか」 「お前らの王子様になってやろうってんだぜ」 間に合ってます。仁がことを荒立たないように俺から謹んでお断りさせてもらうことにした。知ってるぞ、譲治みたいな男のことはスーパー攻めって言うんだろ? Tw○t○erで仲良くなった腐女子の人から聞いたことある。どんな人間でも絡めば攻めになるって。そんなネットでしか話せない腐女子友達から授かった知恵はさておこう。 このなんとも言えない元ヤンと現ヤン、そしてメイド服きた踊り子の勇者達という狂った空間は、流石のヒノマルの人達にも怪奇に映るみたいだ。尊敬以外にも、好奇の目に晒されてるような気がして落ち着かない。これは陽キャ風に言わせてもらうとめっちゃ恥ずいというやつだ。もう死語かもしれないけど。 「どうした、ひょっとしてそんなに俺の肩が嫌だったのか。こう見えて梓のためを思ってやってるつもりだったんだけどな……」 「え、あ、ごめん、そんなつもりじゃ」 「そうか。それなら元に戻してやろう、ついでに真田も来いよ」 「だからいいって言ってんだろォ……」 こいつ確信犯だ。こいつ不良のくせに意外と頭も使う上に流暢に喋るな(急なド偏見)。とにかく抵抗の間も無く元の位置、つまり肩を抱かれる位置に逆戻りした。余裕な顔で片方空いてるぜと仁にアピールしてんのが更に腹立たせているようで、今までなんだかんだ隠してた怒りのオーラがそろそろ溢れ出し始めている。それでも手を出さないのは、仁が不要な暴力をしないと決めているからか、もしくは友達としてのよしみがそうさせないのか。 「とにかくデートなんだったらどっか買い物とか行かねえ? おれ皇子さんから小遣いもらった」 「そんなもんいつのまに……」 「街を探検したいって言ったらくれた」 なんて優しい、口が上手いから良い感じに乗せたんだろうな。ヒノマルといったらやっぱり和風なイメージ。着物とかもあるのかな、俺着たことないけど興味はある。夏祭りも正月もそう言うことしない家だから憧れてるだけだけど……ああ、でもこう言うのって高いからお小遣いじゃ買えないよな。どこかに京都みたいな、試着体験あんのかな? 「仁はどうせどこでもついてくるだろ、梓はどこ行きたい?」 「……我慢我慢、怒ったら苛立って腕噛んでやるからな」 「なんで苛立って誰の腕を噛む気だよ」 「俺の短気さに苛立ってそのまま自分の腕噛む」 「想像よりずっと謙虚で真面目だった」 「えっと……着物の着付け体験に行きたいかな」 思ったより公務員精神を弁えてる仁に驚きつつも、ちゃんと着付け教室のことは話せた。着付けなん興味ないと一掃されるかと思いきや、2人とも乗り気だ。……念のために言っておくが、女の人がいないこの異世界ではおそらく遊郭文化もなかっただろうし、娼みたいな着物は着ないからな。 「男娼はいるかもしれない……」 「合唱の服ってやっぱエロいんかな」 「男娼な」 「そんなもん着付け教室にあるとでも思ってんのか」 斜め上の心配をしつつ、浮き足立った2人と共に着付け教室に向かった。ここから一番近い着付け教室どこですかって通りすがりの商人に聞いた所、大興奮の末小規模な握手会になったのはまた別の話。 一番近い着付け教室 「まさか勇者様にヒノマルの衣服に興味を持っていただけるとは……是非とも最高級の着物を着て見せて下さい!」 予約もしてない飛び入り参加は嫌がられるのではと不安だったが何のその、まさかの大喜び。染物屋と着付け教室が一緒になったその店は、見渡す限りに広がる沢山の着物の数々。もう最悪成人式ぐらいしか着れないだろうと諦めていた俺の小さな憧れが、大手振って大きく輝いている。 意気揚々と準備を進める店主の男の人に、そんなもの勿体ないと何度も言ってみたが、聞いてくれる事はなかった。男娼の着物はないのかとか言うふざけた譲治の質問は、俺が力尽くで遮ってやった。 「これです、和の国伝統の結婚式に着て頂く花嫁役のための衣装、十二単衣です!」 やばい、予想の斜め上のが来た。

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