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第142話 彼氏と譲治が修羅場……じゃない

十二単衣なんて初めて着る、いや生涯着ることはないと思っていた。アラビア踊り子服、メイド服、そして次は十二単衣かよ、やっぱり異世界でも同じような文化だと十二単衣の1つや2つやっぱり出来るものなのかとか、そんな事を悠長に話している場合じゃない。 寧ろ男しかいない世界でよく十二単衣を作ると言う発想に至ったな。花嫁役って何だよ花嫁役って、男同士の結婚式に花嫁を決めて十二単衣を着せるって何つう考えだ、俺には理解できない感性をしている。花嫁役って事は結婚したら奥さんになるんだよな、と言う事はその男の人が子供を産む事になって……深く考えるのはよそう。 「いいな、なんだか結婚式みたいだ。婿用の服はないのか?」 「はい、勇者様に似合うのは勿論最高級の門付羽織袴でございます。宜しければ、今ここでご用意しましょうか?」 「それはいいな、じゃあここに持ってきてくれ」 店主は浮き足立って門付羽織袴とやらを取りに行った。ちゃっちゃと話を進めていく譲治はちょいと読み込み能力というか、適応力が高すぎる。ってかそんなの誰が着るつもりだよ、……まさか2人共着るの? 「二家本、俺は譲らねえぞ。梓の結婚相手は俺だってお天道が決めてんだからな」 「分かってるぞ。実際お前に着せる予定だったからな」 「え? そうなんか?」 まさかの展開。あたかも当然のように俺の肩に手を回しながらも、そんな事を言っている譲治を前に仁は目を丸くしていた。俺もしている。今までのパターンだったらどっちが婿になるか大喧嘩して、そんで建物を破壊とは行かないけどまあそれなりに迷惑をかける感じを予想していた。慣れって怖いな。 譲治の心のうちが読めない中、爆速で衣装を取りに行っていた店主が大きなそれを持って帰ってきた。息切れてる、そんなに必死に取りに来てくれたのか、この修羅場になりそうでならなかった空気を味わって欲しくないからもっとゆっくりでもよかったのに。 「お待たせ致しました……こちらがウチで一番のものに御座います。……まさか勇者様方、ご結婚を考えで?」 「いえ違います」 「結婚は魔王倒した後に高校卒業したらって考えてます。あーでもやっぱり警察学校卒業したらにしたい、梓に無理させたくないし、どうせなら専業主夫にして毎日味噌汁作って欲しいから俺が出世するもっと後で……」 「おい、早くしないと俺が取られるけどいいのか? 謙遜してないで結婚するんだったらちゃっちゃとするぞ」 「はい喜んで!」 「お前らお似合いだな」 いつの間にそんな人生設計考えてやがった、いやもはや設計とはいえないぐらいにふわふわしていたけど。専業主夫って知らない間に俺の将来が決定しているのにも納得がいかない、国家公務員になったお前の扶養に入ってもちゃんとパートして家計を支えるからな。そういうと涙を流して喜んでいた。 その前に日本じゃ結婚出来ないとか言ったらなんで言うんだろう、あいつとびきり馬鹿だから政府乗っ取るとか言い出しそう。元々喧嘩慣れしてて更には異世界で手に入れた能力使ったら、警察だのヤクだのは敵じゃないだろうから……まあそれはそん時の自分に任せよう。あと譲治他人事みたいなツラしてるけどそれでも肩に俺を抱くのを辞めていない、なんだよコレ。 「こうこう……けいさつ……? 何はともあれ、式をあげる際は是非ウチをご利用下さい!」 「前向きに考えます」 「いや元の世界帰るから無理だよ」 馬鹿、じゃない。素直な仁は譲治の異様とも取れる気遣いに何も疑問とか不安とかを抱かなかったようで、1人俺との新婚生活を考えてはニヤニヤしている。俺の頭をは不安の2文字しか無いけど。 「出したんだよ梓、どうせ着付け体験なんだから重く考える必要ないぞ」 「そだな。じゃあ仁は向こうで店主に手伝って貰え、どうせ一人だと帯も通せないだろうに」 「ちょっと2人にはしないで欲しいかな〜」 店主の催促の声とともに、仁は嬉しそうに隣の部屋に入った。俺の話を聞け、5分だけでもいい。せめて譲治と2人きりにさせないでくれ。譲治は嬉しそうに俺を見た、いつも見たいな悪人ずらしてていいよと言いたいほどの満面の笑みで。人の笑い顔は好きだけどコレに関しては恐怖しかない。 「さあ2人っきりになったな……」 「せ、せめてお命だけは」 時代劇で刀を持った悪い男に命乞いする村娘の気持ちを今ここで理解した。これから合法的に服脱がされてエッチな事されるんだ、エロ同人みたいに。この事を憂いたいけど、もう再三再四された事だったと考えたら途端にああ今回もかと考え直せる。 「お前、本当に仁と結婚して幸せになれるのか?」 「……え?」 俺の肩には相変わらず譲治の手が回っている。でもその手が、次第に震えるのを察知出来ないほど俺は鈍感じゃあない。しばらくの沈黙ののち、譲治は再び口を開いた。 「ごめん分かりずらかったな、質問を変える。仁と生涯一緒にいて幸せになれるとか、そう思えるのか? それだけじゃない、梓は…… 仁を幸せにできるのか?」

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