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第191話 優しい人
「小生はまだ70そこそこ、今でこそ若造と思える歳でして。ベル様はまだ齢10の時でした」
10歳というとタマモと同い年ぐらいか。そこからたまに心に余裕ができずに黙ってしまう事が多々あり、あまり人に説明するのには適した言葉ではなかったけれど、目の前で聞いている俺は不思議と頭にスッと入ってきた。
別にベルはゴグダム出身では無い。とある国から魔法の修行のため、数年間だけここにとどまったらしい。黒髪で儚げな雰囲気を持つ美少年であったけど、正直者でそのくせ優柔不断、大事な所もビシッと決まらな無い、しかし絶対に諦める発想には行きつかない。チャンスに弱くてピンチに強い、そんな人だったらしい……
「あの、念のために確認しますけど。似てるっていうのは昔のアイツと似てるって意味ですよね?」
「そうです。外見の話ではなく、心の話です」
よかった。もし今のアイツに似てるとか言われたらショックで2、3日誰とも口聞かなくなってた。
「それ以外にも似てますよ。貴方も彼も人を真に恨む事が出来ない、無性で愛する心を生まれながらに持つ者です」
「はぁ……?」
「生まれ持った優しすぎる性質は、第三者からは甘いと言われるその心は、周りを癒す事はあれど、持つものを幸せには出来ないでしょう……」
それはなんかわかる気がする。実際アニメ見てる時も、なんでこのキャラはここまで人を憎んでいるんだろうとか過去回見ても平気で思ってしまう自分がいる。そしてその憎しみに囚われたラスボスやライバルの救済も望む。そんなもんだと思ってたけど、周りは違うのだろう。
「ベル様は貴方と同様に誰より優しく、感受性も豊かな方だ。誰かを恨もうとすれど心の奥底では自分よりその者の救済を望み、殺意を抱けば抱くほど救う選択肢を捨てた己の非情さに嘆き悲しむ。今の貴方と同じです」
グサリと来た。アイツを殺す、その答えへの後悔から逃げ続けている今の俺を、ホロケウさんは鋭く見抜いた。決めたことを覆すのは嫌だ……でも誰かを殺すのが嫌だとは一言も言っていない。
「失礼話が逸れました。ベル様はゴグダム第一魔法学校の生徒と、そして小生の弟子となりました」
「魔法学校……? 魔法の勉強するんですか」
「はい。成績は全てトップを独走、半年もかからずに学長である小生の力を超えてしまった……」
思ったよりも素質があった。周りの魔法使いは軒並みチートしかいないから麻痺しがちだけど、普通に考えて学長を超えるのはそういる者ではないと思う、それがたった半年ともなれば尚更。俗に言ううん10年に一人の逸材というやつだ。
「しかし一つだけ、あの方には問題がありまして。……生まれ持つ千里眼があまりにも強すぎだのです」
「千里眼って未来とか過去とか見えるやつですか? もしかして、人の心を読んだりも出来たり……」
「そのお通りです、鋭い……否面識があったのでしたね。ベル様は特に人の心を読む能力に秀でる方でした」
俺と同じような性格で、そんで人の心を止める力か……もし自分が持ったらなんて考えてもパッとしない。でもなんだかあんまりうれしくはならないと思う。知らなくてもいいというか、知らない方が幸せな事なんてこの世の中にはいくらでもあるだろう。そうやって他人事のように考えていた。
「その通りです。小生のように長年の学問の追及によって得た異能ならさておき、あんなにお優しい方が生まれつき得た力となると……随分と話が変わってきます」
「あーその……やっぱホロケウさんもそんな感じの力持ってたんですね」
予想通りというか、まさかそんな訳ないと思ってたというか……とにかく不思議な感じだ。修行じゃなくて生まれつき。確かに否応なしに考えがわかってしまうことは気の毒だとは思うけど、それとこれとは話は別だ。誰かのせいで俺が傷つく事はあっても、俺のせいで誰が傷つく事はあっちゃいけない。少なくとも俺はそう思う。
「ベル様もそう思っていたのでしょう。不気味がられようと、化け物だと罵られようと、決して顔を下に向けなかった。力あるものは弱きものを守るのが使命、この力も守るためにあるのだと。そう信じて疑わなかった」
それはその……すごいな。恨みつらみを抱く人間の気持ちはわかる事ができても、恨まれる者の気持ちというのは考えた事がなかった若造の俺としては、なんというか、想像出来ない世界だ。
「……そんな優しい人が、とある日を境に豹変してしまった」
「とある日?」
「ベル様がゴグダムに住み始めて3年ほどたった時のことです。数年に一度の温暖な一年、ゴグダムも雪が少なく、それを見計らってベル様も里帰りをしたのです」
むしろ3年間も気安く里帰りが出来ないほどに雪が降ってたのか。ホロケウさん曰く、ここより遠くのとある貴族の出身だった魔王は、里帰りをしたその時からまるで別人のように性格が変わっていったという……
授業をサボりだし、図書室で闇光そして呪い問わず様々な魔導者を読み漁っていた。他人とも一方的に距離を取り、ますます不気味がられたみたいだ。……そしてそれはホロケウさんに対しても、例外ではなかった。
「一体どうしたのかと聞きに行ったある晩の話です。……私は彼に拒絶されました」
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