仁がくるまでやけに長く感じた、多分者の数分ぐらいだったはずなのに。俯くばかりで考えることもできなかったことは、ホロケウさんにはバレバレだと思う。なにも言ってこないのはありがたかった。ただ罪悪感と防衛心にの狭間で板挟みな俺に何も言わないでくれて嬉しかった。 「何してんだ？　その、夢の中に魔王が来るってこと委員長に教えたぞ」 やっぱしホロケウさんに関しては一定の信頼というか、安心感があるのだろう、何も言ってこない。コレがもし薫とか譲治とかなら食い破る勢いで噛み付いていただろう。背を向けていたから声しか聞こえない、振り返ろうにも今は他人の顔を見る気分ではない、俗にいうお通夜状態。しかし背後から何やらチリチリと金属音がして、首に何か違和感を覚えたときには流石に振り返った。 「うわビックリした……その、この首飾り魔法使い達が作ってくれたやつでさ、しとけば悪い夢から守ってくれるって。魔王からの介入に対抗できるかは知らんけど……」 「そ、そうか。ありがとう」 白い石がキラキラと輝く、それでいて派手ではない首飾りだ。つければ悪夢を見なくて済むか……って事はもうアイツに、ベルに事実確認ができないわけで。本当に忘れることはあるのだろうか、拒絶されたら身を投げ出すほどまでに信頼して入れ込んでいた恩師を。気にも留めないなんてことあるのだろうか、同じ境遇を分かち合い友のように分かり合った親友よりも濃い関係を持った存在を。 信じられないからこそ確認だけしたかった。もしもこんなに優しい人の事を忘れて、そんなのと呼ぶような程に性質がねじ曲がってしまっていたら、その時は俺が責任持って殺すとも考えていた。もし忘れる事なく今でもその思い出を大切にしていたら……どうするべきなのだろう。そうなってしまったら、仁は一体どうしたいのだろう。 「なあさ、仁……」 「ん？　首飾りキツかったか？」 ……いうべきなのか、本当に今それを言っていいのか。なんか俺がベルに同情して肩入れしてるみたいに思われてしまうのではと不安がよぎる。まあ実際に同じようなもんだけどさ、だからって指輪の呪いに関する件は許したわけじゃないぜ。いくら生前己が依存にも近い関係を持っていた人との関係が崩れ去ってしまったからと言って、他人の恋路に待ったをかけるなんて。しかも邪魔をするだけならまだしも、好きな人を忘れる呪いなんて酷すぎる。 ＿＿いいや違うな、寧ろそうだからだ。悲しかったからこそ、無念だったからこそ、憎らしいものというのはあるのかもしれない。それにしてもまだ俺という他人に執着できるほど思い入れがあるなんて、よっぽどの人好きなんだろうな。或いはただの諦めが悪くてなんだかんだ自分の意思を押し通したい駄々っ子かだ、今俺が一番なりたいそれ。 「いやそうじゃない、やっぱいいや。俺もちょっと我儘になればいい話だし」 自分の人生がかかっている時ぐらいは我儘になっても許されるのでは、長男歴１４年、最後に駄々っ子になったのはいつなのかちょっとわからない、そんな俺がたどり着いた結論が数年ぶりの我儘なんて。成長なのか退化なのかわからんけどこれが今の俺の全力だった。 仁には悪い事したな、なんの説明も無しに変な事を書かせてしまった事を詫びようと顔を見ると、何故だか恥ずかしそうにしている。 「ど、どうした？　やっぱ駄々っ子になるのはダメだった？」 「いやそうじゃなくて……」 今度は俺がわけわからなくなった。そんな順番回ってこんでいいけど、もう隣を見たらホロケウさんが俺より早くお通夜状態を脱却している。なんでだ、なんであんなに微笑んでいるんだ。 「いやはや、愛する人がいるというのは素晴らしい事ですね」 「はあ……？」 「アレだ梓なんというか、大胆なのは大好きだけど、俺以外の他の男がいる所でそういうこと言うのは……」 「ん？　＿＿ばっかじゃねえの！」 理解するのに体感１秒かかった。なんでこの状況下でその発想に行き着くんだよ頭煩悩まみれか、ある意味健全だな。恥ずかしそうにしてんじゃねえ、それじゃあまるで俺が恥も感じずに昼間っから彼氏誘っている淫乱みたいだろ。こらホロケウさんも笑ってんじゃあねえです(すんでの所で敬語になった)。 「でもそんな梓も可愛いぞ！　ラストスパートになったら泣きそうな顔しながらもっとって我儘言うところも、出し尽くした後も半ば失神寸前まで求めてくる駄々っ子なところも、全部が好きだからな！」 「ガッデーム！！！　そんな理性吹っ飛んだ後のこと責任取れねえよ！」 「大丈夫だ俺が取ってやる！」 「だからお前の！　そう言う！　ところだぞ！！！」 「なんと言いますか、お二人を見ていると世界は捨てたものではないと考え直せます」 俺ってば想像以上に我儘言ってるし駄々ごねまくってる。理性吹っ飛んだ後は何言ってるか本当に管轄外なんだよ、何が責任取るだ当然だろ一生大事にしろや！　……こう言うのが我儘っていうのかな、ひょっとして案外悪くない？ こうして俺は、また一歩魔王討伐に向けて強くなれた気がしたのだった。