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 白柳は蘭を抱いて、バスルームを出た。身体を拭く間も与えずに、蘭をシングルベッドに下ろす。 「ベッドが……、濡れます」 「どうせグチャグチャになるさ。構いやしない」  しどけなく横たわった蘭を、白柳はしみじみと見つめた。 「控え室の長椅子より、ずっといいな。君の躰を、じっくり観察できる」 「恥ずかしいです」  蘭は、目を伏せた。 「それに、部屋も……、こんな安っぽい所で。まさか、こんなことになるとは思っていなかったから……」 「優は、何をしている人?」 「大学院に通っているんです」  蘭は、用意していた答を口にした。貧乏学生の設定に信憑性を持たせるため、わざとオンボロ宿を取ったのだ。幸い蘭は、実年齢よりも若く見える。白柳は、信じたようだった。 「政治学でも専攻しているの?」 「はい。○○大学の政経学部です」  まんざら嘘ではない。新聞社をクビ同然の形で辞めた後、蘭はその大学に、聴講生として籍を置いている。 「ね、先生。それより、今夜は泊まってくださるんですよね?」  蘭は、手を伸ばして白柳の腕に触れた。 「ああ。秘書には上手いことを言って、先に東京へ帰した」  確証を得て、蘭は胸を撫で下ろした。白柳の秘書・古城の動向は、稲本から報告を受けている。ニセの情報で外へおびき出された後、講演会場へ戻った彼は、首をかしげながら一人駅へ向かったとのことだ。無事、帰京してくれたのか。 「嬉しいです。なら今夜は、ずっと一緒ですね……」  蘭は身を起こすと、白柳に抱きついた。

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