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 蘭は、唇を噛んだ。  ――確かに、言質は与えた。でも、だからって勝手に噛むか?  深い絆とはいえ、番関係はアルファ側から解消することもできる。その場合、捨てられたオメガは心身共に弱り、多くは早死にするのだ。白柳には、怒りしか覚えなかった。 「ええ……。陽介さんと番になれたのは、本当に嬉しいですけど。でも、やっぱり不安です。今は僕を気に入ってくださっていても、気持ちが変わる可能性だってあるでしょう? もし陽介さんに捨てられたら、僕……」  不安そうに、眉をひそめてみせる。だが、白柳の表情は変わらなかった。 「心配するな。番を捨てるような、非情な真似はしないさ」  この男の腹の内は、一体何なのだろう。蘭は彼に、得体の知れない不気味さを感じた。 「そうですか……。いえ、陽介さんのことは信じたいですけど。でも僕も、急なことで戸惑ってしまって……。番を作るのは、ずっと先のことと思っていたんです。まだ学生の身ですから。だから、今後の生活が気がかりで。それに、妊娠、していたら……」  予感はしていたが、白柳はホテルでも、避妊具を使わなかったのだ。とはいえ白柳が、行きずりのオメガと結婚するとは思えない。どういうつもりか、と蘭は暗に尋ねた。すると白柳は、おもむろにうなずいた。 「それも大丈夫だ。面倒はみるつもりだから」  笑みがこぼれそうになるのを、蘭はかろうじてこらえた。 「本当ですか? 番の僕の生活を、金銭的に保障してくださるんですね? もしできていたら、子供のことも?」 「ああ。約束する」 「ありがとうございます……。ようやく、安心できました」  蘭は、にっこり笑ってみせた。白柳も微笑み返すと、起き出してバスルームへと消えた。彼がいなくなると、蘭はスラックスのポケット内を確認した。ICレコーダーは、正常に作動している。  ――愛人にする、と言ったな。証拠は()ったぞ……。 

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