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”
「そうでなきゃ、両親に挨拶すると思うか?」
陽介は、けろりと言った。
「君だって、番になったと認めていたじゃないか?」
「そりゃ、誤魔化しようがないだろ……。だけど、俺なんかが、白柳家に認めてもらえるのかなって。後援会の人たちだって、どう思うことか……」
さっきまで、蘭は白柳家に乗り込む覚悟だった。だがその決心は、やや揺らぎ始めていた。陽介は、オメガを認めてくれている。父親の勲はともかく、彼のことは政治家として応援してやりたいと思うのだ。自分の存在が妨げになったらどうしよう、と蘭は不安になった。市川家は、小さな新興企業のトップに過ぎない。白柳家とは、格が違いすぎる。しかも、自分はオメガ……。
「結婚するのは俺だ。家は関係ない。それと、俺は君のことを認めているが、もし表に出るのがいやなら、無理に出なくてもいい」
「そんなわけにはいかないだろ」
蘭は、眉を寄せた。政治家の配偶者といえば、本人と同じかそれ以上に重要な役割を担っている。普段から事務所に顔を出して気を配り、選挙ともなれば、一緒に壇上に上がらなくてはいけない。だが陽介は、それも否定した。
「いや、したくないならする必要はない。……実際現状では、配偶者の役割の重要性は、低下しつつあるんだ。むしろ、事務所に出入りしてあれこれ口出しすると、反感を買う場合もある。だから、その点は気にしなくていい」
「……そうか?」
ならいいかな、などと思っていると、陽介は口の端を上げた。
「交渉成立、ということでいいか? よろしくな、奥さん」
「奥さんは止めろ」
蘭は、口を尖らせた。
「まあプロポーズは受けてやるからさ。さっさと家まで送れよ」
「その前に、一つ要求がある」
言うなり陽介は、蘭のスラックスのポケットに手を入れた。
「録音を、消してもらおうか?」
彼が取り出したのは、ICレコーダーだった。
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