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「――ばっ……、馬鹿! 何言ってやがる!」  蘭は、ぎょっとした。 「人の話聞いてなかったのかよ? 白柳家に乗り込んでやろうと思ったんだよ。勲の弱点をつかむチャンスじゃねえか」 「本当にそうか?」  稲本は、それでも疑わしそうな顔をしている。やがて彼は、とんでもない台詞を吐いた。 「口では何のかんのと言っていても、お前らはしょせんアルファとオメガだ。あいつとヤって、その味が忘れられなくなったんじゃないのか? もしかして、勝手に噛まれたってのも嘘で、本当は自分からうなじを差し出したんじゃ……」  バシン、と蘭は稲本を張り倒していた。 「言っていいことと悪いことがあるぞ」  全身が、怒りで震える。同時に蘭は、深く傷ついていた。稲本はこれまで、蘭のオメガ性を貶めるようなことは一度も言わなかった。だからこそ、信頼していたというのに……。 「……悪い」  稲本は、ぽつりと言った。その頬は、真っ赤に染まっている。オメガにはひ弱な者も多いが、蘭は記者という仕事上、体を鍛えてきた。その蘭が渾身の力でひっぱたいたのだから、痛みは相当だったことだろう。だが稲本は、叩かれた箇所を気にかけるでもなく、蘭をじっと見すえた。 「でもな、お前のそんなやり方には、やっぱり付いていけない。白柳勲を追うのは続けるが、今後は別行動にしよう」 「おい……」  蘭は、眉を寄せた。なぜそんな非効率なことをするのか。共闘した方が、絶対にうまくいくはずなのに……。 「まさか、友達も止める気じゃないだろうな? 約束したばっかりじゃんか。これからも友達でいようって……」  稲本は、黙って立ち上がった。 「おい! 稲本!」  蘭の問いに答えることなく、稲本は部屋を出て行った。

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