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「陽介。彼、幼なじみの相沢悠。悠は……、紹介しなくても知ってるよな? 白柳陽介だ」  陽介は、よろしく、とシンプルに挨拶した。悠は、勢いよく立ち上がると、陽介にお辞儀をした。 「初めまして! 蘭の友達の、悠です……。蘭とは、同じ養護施設で育って……」  そこまで言ってから、悠ははっとした顔をした。 「あ! 蘭、ごめん……。僕、うっかり……」 「いいよ。陽介はもう知ってる。俺が養子だって」  そう答えると、悠は安堵した表情を浮かべた。 「そうなんだ。なら、よかった……」 「おい、さっさと車まで来い。時間がないんだ」  陽介が、蘭に向かって顔をしかめる。蘭は、口をとがらせた。 「わかったよ。そんなにカリカリしなくても……」  陽介が、くるりと踵を返す。だがそこへ、数人の女性客が駆け寄ってきた。サインをください、と騒いでいる。蘭は、肩をすくめて悠の方に向き直った。 「ごめんな。あいつ急いでるみたいだし、もう行くわ」 「全然いいよ! 会計はしておくし……。それにしても」  悠は、チラと陽介に視線を走らせた。 「陽介先生、テレビで観るよりずっとカッコいいじゃん! 僕、びっくりしちゃったよ」 「まー、見た目だけはな」 「お似合いだよ! 美形同士だし……」  悠は興奮していたが、ふと蘭を見つめて微笑んだ。 「蘭。幸せにしてもらいなよね。僕のための復讐とか、考えなくていいからさ」 「何言ってんだよ。そのために結婚するってのに……」 「――おい!」  サインを終えた陽介が、苛立たしげに呼びかける。蘭は悠に悪いな、と告げると、彼の後を追ったのだった。

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