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”
「相沢悠、といったな?」
車に乗り込むなり、陽介は言った。
「何だ、ちゃんと覚えてたんだ」
ろくに関心なさそうだったのに、と蘭は思った。
「職業柄、人の名前は一発で記憶する……。同じ施設で育ったって?」
「うん。俺は十歳、悠は十一歳で、それぞれ養親に引き取られたんだ。それまでは兄弟も同然だった……。あ、兄弟じゃおかしいか。あいつとは、同い年なんだよね」
蘭はくすくす笑ったが、陽介は意外にも険しい顔をしていた。
「蘭。悪いことは言わないから、もう彼とは付き合わない方がいい」
「――どうして!?」
蘭は、カッとなった。
「悠が施設出身だからか? 差別する気かよ?」
「違う。俺は、そんな外形的なことで人を判断したりしない」
確かに、蘭がオメガ性を理由に侮辱された時、陽介はいつも庇ってくれた。では何なのだ、と蘭は訝った。
「友達が婚約者を紹介しているというのに、施設出身だ、なんてわざわざバラすか? そういう人間は、信用ならない」
「うっかり口をすべらせることくらい、誰でもあるだろ。興奮してたし」
蘭は、ややイライラしながら言った。陽介は、そうかな、と言いたげに首をかしげた。
「あとは、まあ……。俺の直感だな。ちょっと話せば、どんな人間かくらいわかる」
「決めつけんなよ。あいつだって、いろいろ苦労して……」
擁護しようとしたが、蘭は途中で思いとどまった。あまり詳しく話せば、勲の事務所での事件に行き着いてしまうからだ。白柳は、蘭の沈黙を納得と捉えたらしく、「行くぞ」と車を発進させたのだった。
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