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 連れてこられたのは、セキュリティの厳重な高級マンションだった。部屋にたどり着くまでに、何カ所ものオートロックが取り付けてある。共用施設も多数そろっているようだった。 「用があれば、何でもコンシェルジュに言って。フィットネスルームや天然温泉、AVルームもあるから、自由に利用していい」 「……ああ」  仕事柄、そういうリゾートホテル並みのマンションが存在することは知っていたが、実際訪れるのは初めてだ。興奮するのはしゃくなので、蘭はクールにうなずいた。 「ちなみに、キッズルームもある。早く利用できるようになるといいな」  陽介が、片目をつぶる。蘭は、軽く彼をこづいた。 「……このスケベ」 「痛いな……。さあ、ここが俺たちの新居だ」  案内されたのは、最上階の角部屋だった。見晴らしが良く、都心の夜景を一望できる。天井は高く、内装にも洒落た工夫が凝らされていた。やはりホテルかと言いたくなるほどだ。それも、ハイクラスのホテルである。何より、広い。一体何平米あるんだろう、と蘭は思った。 「どうだ、気に入ったか?」 「悪くないな。何より、セキュリティがしっかりしてるってのがいい」  あえてデザインや広さには触れずにそう返したのだが、陽介は大真面目にうなずいた。 「そりゃ、大事な蘭に何かあったら大変だからな……。ところで蘭、うちの親に会う気はあるか?」  コーヒーでも飲むか、というくらいの気安い口調で尋ねられ、蘭はドキリとした。  ――白柳勲と話すチャンス。  実は、どう陽介に頼もうか、あれこれ切り出し方を練っていたのだ。陽介の方から言ってくれるとは、ラッキーだった。 「いやなら、無理には……」 「会うよ。是非、ご挨拶させてくれ」  陽介の目を見て、きっぱり告げる。すると彼は、やや面食らった顔をした。

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