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「こりゃ驚いたな。てっきり、嫌がるかと思ったのに」  蘭は、やや焦った。勲に接近しようとしていることを、悟られてはならない……。 「そりゃ、陽介は仮にも俺の結婚相手だろ? 陽介だって、俺の両親に会ってくれた。俺だって、ちゃんと挨拶しないと」 「律儀だな」  幸いにも陽介は、それ以上疑問には思わなかったようだった。 「でも蘭、一つ承知してほしい。会ってもらうのは、父親だけだ。すまないな。母親は、この結婚に反対していて。どうしても会わないと、言い張っているんだ」  構わないよ、と蘭は言った。標的は、勲なのだから……。 「蘭がどうとかじゃないんだ。うちの家系は、代々アルファだから。息子がオメガと結婚するのが、許せないらしい」  陽介の母親も、とある大物政治家の姪で、アルファだ。息子にはさぞかし、名門政治家の家系のアルファ女性と結婚してほしかったに違いない。容易に想像できた。 「でも、それは表向きの理由だ」  陽介は、まだ申し訳なさそうな顔をしている。 「母がオメガを嫌うのは、父がオメガ好きだからだ。父は過去に何人も、オメガの愛人を持っていた」  悠のことを思い出して、蘭は再び怒りが湧き上がるのを感じた。それを押し殺して、蘭は何気なく尋ねた。 「気にすんなよ。……ところで勲先生って、何がお好きなの? ほら、俺も嫁として気に入られたいからさ」 「オメガだ。他の何よりもな」  陽介は、間髪を容れず答えた。 「あれは、もう病気だな。オメガと見れば、男女問わず手を付ける……」  少しため息をつくと、陽介は蘭に向かって手招きした。 「もうこの話は止そう。それよりも、こっちへ来てくれ。見せたいものがある」  連れてこられたのは、ばかでかいクローゼットが備え付けられた部屋だった。どうやら、衣装部屋らしい。陽介がクローゼットを開けると、中には十着以上ものスーツが下がっていた。シャツやネクタイ、靴などの小物も共に置いてある。 「蘭。君へのプレゼントだ」

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