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5 宿敵との対面

 その週末、蘭は陽介の車で、白柳家へと向かっていた。 「今日は、人払いしてある。父しかいないから、気兼ねしなくていい」  陽介は言った。 「いつもは、にぎやかなのか?」  稲本からの情報によると、白柳勲レベルの大物政治家となれば、政財界の人間や記者らが、普段から自宅に出入りしているそうだ。うん、と陽介はうなずいた。 「小さい頃は、記者の人たちによく遊んでもらったな。まずは子供の機嫌を取ろう、という腹だったんだろうけど……」  そこで陽介は、蘭が元記者だと思い出したのだろう。口をつぐんだ。ややあって、彼は遠慮がちに尋ねてきた。 「そういえば、蘭はどうして会社を辞めたんだ?」 「セクハラだよ」  蘭は、用意していた答を口にした。 「誘いを断ったら、左遷された。それで嫌になって、辞めたんだ」 「ということは、社の人間だな? 部長クラスか? それとももっと上か? 手を回して、報復してやる……」  記事を握りつぶさせたくらいだ、白柳家ならそれくらいの力はあるのだろう。だが、へたに詮索されて、真相を知られるとまずい。蘭は、あえてけろりとした風を装った。 「いいって。もう気にしてないから。陽介にしてもらうことがあるとしたら、『日暮新聞』には、今後ネタを与えないでほしいなあ……」  媚を含んだ目つきで、運転席の彼をチラと見る。まだ在籍している稲本には申し訳ないが、古巣にはやはり恨みがあった。 「蘭のためなら、お安いご用だ」  陽介は、あっさりうなずいた。 「蘭と、もう少し早く知り合えていたらな。職場のセクハラ問題には詳しいし、きっと解決してやれたのに」  陽介は、弁護士でもあるのだ。労働問題が専門だったっけ、と蘭は思い出した。

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