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「そういや、テレビでよく、熱く語ってたよな。オメガへのセクハラパワハラ問題について。あれで名が売れたんだよな」  陽介が政界に進出できたのは、その知名度のおかげである。 「でもさ、そんなことわざわざしなくても、普通に親父さんの跡を継げばいいじゃん。どうして?」  いわゆる二世議員は、圧倒的に有利だ。地盤(後援会組織)、カバン(資金)、看板(知名度)の三つを備えているからである。だが陽介は、あえて父勲の地盤を引き継がなかったのだ。 「それが嫌なんだよ」  陽介は、顔をしかめた。 「さっきも話したとおり、自分の家庭が普通とは違うのは、子供の頃からわかっていた。政治の道は志したかったが、父親の力に頼るのは嫌だったんだ。だから自力で名を売った。……それに、父親もなかなか引退しそうにないしな。それまで指咥えて待ってられるか」  世襲といえば、親が政界からの引退を表明して、子供を後継者指名するのが通常の方式だ。白柳家のように、父子ともども現役というのは、珍しい。 「なるほどね。……でも、どっちみち白柳の名字は影響しただろ?」 「ああ」  陽介は苦笑した。 「いっそ、蘭の家に婿入りでもするかな。それなら、もう名字がどうのと言われない」 「馬鹿言うな」 「そっちがからかうからだろう」  そんな軽口を叩いているうちに、二人は白柳家に到着した。車を降りようとする蘭を、陽介は呼び止めた。 「父に会う前に、一つ注意だ。今回俺は、君の情報を父にほとんど話していない。それは、俺が父という人間を、信用していないからだ。我が親ながら、何を企んでいるのか腹の中が見えないところがある。……だから蘭、君は今日、必要最低限の挨拶をするだけでいい。一切、余計なことは口走るな」

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